ALAIN CREVET INTERVIEW

「ピーン」と響くステイタス
トップはロックなフランス人

December 2018

Alain Crevet

アラン・クルヴェ

エス・テー・デュポン社長。1960年、仏パリ生まれ。祖先はブルゴーニュにてナイトの称号を持つ貴族だったという。フランスのビジネススクールHECを卒業後、1985年、プロクター&ギャンブル社に入社。ラテンアメリカの副社長を経て、2000年、LVMH グループのパルファム ジバンシイの社長兼グループの執行委員メンバーとなる。2006年よりエス・テー・デュポンの社長に就任。センスと若々しさに溢れたビジネスマンである。

 

 

「ピーン」という印象的な音で有名なエス・テー・デュポンのライターは、今も昔も、紳士のステイタスシンボルである。かつては高級レストランやクラブのそこかしこで、このピーンという音が響いていた。現在では、主にシガー愛好家の間で、絶大な人気を誇っている。

 

 その本国社長、アラン・クルヴェ氏にインタビューする機会を得た。

 

「私の父も、そして祖父も葉巻を嗜んでいました。そして私が19歳になったとき、エス・テー・デュポンのライターをプレゼントしてくれたのです(フランスの喫煙年齢は18歳から)。それは私にとって、初めての“高級品”でした。それからしばらくして、ペンと財布を手に入れました。フランス人である私にとって、エス・テー・デュポンは入社する以前から憧れのブランドでした。だからここで働けて、本当に嬉しいのです」

 

 

エス・テー・デュポンの代名詞でもある“ライン2”ライター。¥106,000(エス・テー・デュポン

 

 

 澄み渡ったピーンという音は、偶然の産物だったらしい。

 

「エス・テー・デュポンのライターは、最初はライン1と呼ばれるずんぐりとしたモデルだけでした。そこにもっとスマートな形をした“ライン2”を出した。そうしたら高いトップ部分と縦横比の関係で、美しい音がした。それが日本で大人気となって、トレードマークとして定着したのです。今ではフランス、ファヴェルジュの工房には、日本向けに音質をチェックする職人がいるのですよ(笑)」

 

 エス・テー・デュポンには、もうひとつのウリがある。彫金とラッカー(漆塗り)だ。これらを組み合わせた技術は、他のどこにも真似が出来ないと胸を張る。

 

 

 

 

「これを見て下さい!」と叫ぶと、いきなり手元にあったナチュラルラッカー仕上げのペンをライターで炙り出した。メラメラと燃える炎がボディを包む。数秒程度は炙っただろうか。普通のペンだったら、溶けてしまっているだろう。しかし、エス・テー・デュポンのペンは、なんともないのだ。これには居合わせた全員が目を丸くした。

 

「ほうら、こうやって炙っても、ラッカー部分はなんともない。これは100%ナチュラルなラッカーとメタルを組み合わせているからこそ出来ることです。天然のラッカーは非常に耐久力のある素材なのです。ライバル・メーカーは、プラスチック・ベースを使ったりしますが、エス・テー・デュポンだけは違う。しかも天然ラッカーは、キズがつきにくいし、たとえキズついたとしても、使っているうちに自然と消えていくという不思議な性質を持っています」

 

 アラン・クルヴェ氏は、2006年の就任以来、ライター、ペン、レザーグッズの三本柱に注力し、広げすぎていたブランドの立て直しに成功したと評価されている。

 

「1872年の創業以来、われわれはさまざまなセレブリティに愛されてきました。ナポレオン三世やジャクリーン・ケネディ、ピカソなど、錚々たる人々です。ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式の際には、フランス政府のオフィシャル・ギフトにも選ばれました。長い歴史の中で、手を出していなかったものは整理し、私はブランドを本来の姿に戻したのです」

 

 

007 ジェームズ・ボンドをモチーフとした限定コレクションのライター。ボディに弾痕を模した穴があいている。¥228,000 ※世界限定1962個(エス・テー・デュポン

 

 

 その代わり、ライターひとつとってみても、さまざまなアーティストや映画とコラボするなど、幅広いコレクションを展開している。

 

「巨匠ピカソは、愛用していたエス・テー・デュポンのラッカー仕上げのライターに絵を描いて、それらを家族や友人にプレゼントしたそうです。ですからピカソを讃えた限定トリビュート・コレクションを発表しました。またジェームズ・ボンドのコレクションでは、ライターの真ん中に穴を開けました。これは弾丸で打ち抜かれた跡なのです。ペンとライターを組み合わせてピストルのようにレイアウトした商品も発売しました。どうです、面白いでしょう?」

 

 その他にも、マンガ『ONE PIECE』の作者、尾田栄一郎氏とコラボしたコレクションなど、そのアイデアと遊び心には脱帽だ。

 

 

キャンドル用として開発されたトーチ式ターボ・ライター“ザ・ウァン”。¥24,000または¥26,000(エス・テー・デュポン

 

 

 日本人にもウケそうなのが、トーチ式ライター“ザ・ウァン”だ。細長くスマートなボディにパワフルなトーチフレームを搭載したモデルで、キャンドル用だが、これは日本ならではの線香に火をつけるのにもぴったりだ。これのブラックかシャンパンを、仏壇に常備しておきたいと思うのは、私だけではあるまい。また用途としてはまったく逆だが、アウトドア用としても持ってこいだろう。長いボディは、バーナーや薪に火をつけるのに重宝しそうだ。

 

 日本は、エス・テー・デュポンにとって重要なマーケットだと言う。

 

「フランス、日本、そして韓国が世界の三大マーケットです。日本に上陸して42年の歳月が経ちました。日本とフランスは、共通する部分がたくさんありますね。技術に対して尊敬の念を持つところもそうです。例えば、他の国では『ライターひとつ作るのに、60時間もかかるのです』と言っても、『あっそう』と言われて終わりですが、日本人は心から感動してくれる」

 

 

 さてそんなクルヴェ氏は、1960年生まれというから、現在58歳になるわけだが、そんな年齢をまったく感じさせない。スリムなジャケットとパンツに身を包むその姿は、驚くほど若々しさに溢れている。その秘訣を聞いてみると、「若さの秘訣は“好奇心”です。何にでも興味を持つことが大事だと思います。日本は大好きでもう何度も来ているのですが、来る度に、新しいブティックやレストラン、アートスポットなどを探し歩いています」という。

 

 趣味は“バンド活動”で、エス・テー・デュポンの社長業の傍ら、友人たちとバンドを組んで、日々音楽活動に勤しんでいるらしい。

 

「若い頃から、ローリングストーンズやU2、オアシスなどが大好きで、今でも仲間とロック・バンドを組んでいます。バンドの名前は“マネージャー”というのですよ。なぜなら、他のメンバーも、広告代理店などで、皆マネージャー職をしているからです(笑)。チャリティー・コンサートなどで活動しています」

 

 今回の来日の際にも、六本木にあるライブ・ハウスで“飛び入り演奏”を披露したらしい。こっそり見せてくれた携帯には、Tシャツ姿でギターをかき鳴らす、クルヴェ氏の姿が写されていた。

 

 こんなトップに率いられるエス・テー・デュポンから、しばらくは目が離せない。

 

 

<お問い合わせ先>

エス・テー・デュポン 銀座ブティック

Tel.03-3575-0460

www.st-dupont.jp