A HIGHLAND FLING IN THE MASERATI LEVANTE GRAN LUSSO

マセラティ レヴァンテで往く
スコットランドの凍える道

February 2021

THE RAKEデジタルエディターのライアン・トンプソンが、マセラティ レヴァンテ S グランルッソを駆り、スコットランドのケアンゴームズ国立公園を訪れた。

 

 

text & photography ryan thompson

 

 

 

 

 そこはスコットランドのケアンゴームズ国立公園内にあるグレン・シースキー場を過ぎたあたり、12%の勾配の山道だった。この山の向こうに、本日の目的地であるブレーマーのラグジュアリー・ホテル、ザ・ファイア・アームズがあるのだ。カメラマンはリアミラーの視界から消え、ドアを開けて反対車線へ出ていった。

 

 私はたとえ最高級SUV、マセラティ レヴァンテ S グラン ルッソのシートに座っていたとしても、負け犬をバカにするタイプではない。しかしこの哀れなカメラマンは、この山を超えるのに、小型スポーツカーを選んでしまったのだ。それはもし路面がドライならば、まるでニトロでチューンされたゴーカートのように走る。しかし残念なことに、路面はドライではなかった。彼は道路を横切ろうとして滑り、路面にしたたかに尻もちをついていた。

 

 フロントガラスに視線を戻すと、雪が激しく降っていて、高速ワイパーが少し怒っているような音をたてていた。すぐ前には、3人の男がシュコダのサルーンを囲んでおり、その間に1人がタイヤチェーンを付けようと奮闘していた。

 

 遠くには、経験豊富そうなトラック運転手が、道路脇に車を停めて、白い紙袋のサンドイッチを頬張りながら、こちらを見ている。凍てつくスコットランドの山道で、おしゃれなイタリア製の4WDが何をしているのかと首を傾げているようだ。

 

 

 

 

 スラウでクルマを借り出したとき、プレス担当と私は、オフロードの設定は必要ないねと笑っていた。しかし今や吹雪の中、私はオフロード・モードに頼り切っている。私の周りのすべてのクルマは、いかなる前進もできないでいる。

 

 カメラマンがゆっくりと視界から消えていくのを見て、私はやや罪悪感に捕らわれた(心配しないでもいい。後から来るランドローバーが彼をピックアップしてくれるはずだ)。シュコダに乗っていた若者たちは、肩を寄せ合って、トラックが道を開けるのを待っていた。私はシートヒーターをオンにして、ほっと一息つくと運転を続けた。

 

 それからの10分間、レヴァンテは危険な山道を、一度もホイールスピンをすることなく、力強く登り続けた。

 

 情け深い人は、なぜカメラマンを道端に置いてきたのかと非難するかもしれないが、レヴァンテは最高級の服飾品が詰まったスーツケースで満載だったのである。あなたなら、どちらを選ぶだろう?

 

 

 

 

 気候変動や地球環境についてとやかくいわれる世の中だが、数字は嘘をつかない。SUVの売上高は年々上昇し、他のすべてのジャンルのクルマを凌駕している。ほぼすべての高級ブランドがSUVの開発とリリースに多額の投資をしている。

 

 それらすべてを運転したわけではないので、優劣をつけることはできないが、ひとつだけ言えることがある。私はレヴァンテに恋をしてしまった。しかし、いわゆる“一目惚れ”ではない。私はオンロードとオフロードを合わせて、18時間もこのクルマを運転してきたのだから。

 

 もちろん最初に見たときから、レヴァンテは美しかった。クルマの周りを回ると、トリプルレイヤーの塗装が美しいブルーのニュアンスを煌めかせていた。スコットランドのどんよりとした空の下でも、とても印象的だった。

 

 

 

 

 ボンネットの下には430馬力のV6 Sエンジンが搭載されており、580Nmのトルクを発揮し、5.1秒で60mphをマークする。しかし、このコンディションでは、完全に踏み込むことはできなかった。雪はやがて止んだが、相変わらず雨は降っており、外気温は氷点下だったので、スピードテストは断念した。

 

 どんなクルマでも18時間のドライブは苦行だが、レヴァンテは快適そのものだった。私の身長は190cmで、長時間じっとしていることは大の苦手だが、レヴァンテのドライビング・ポジションは、道中ずっとリラックスできるものだった。ハンドリングは実にしっかりとしており、ちょっと不注意するとぬかるみにハマってしまうような道でも不安なく走行できた。

 

 グランルッソのインテリアは、エレガントでクラシックな雰囲気だ。マセラティは、イタリアの巨人エルメネジルド ゼニアのクラフツマンの手を借り、シルク地が施されたドライビング空間を作り上げた。リーヴァのスピードボートを彷彿とさせるエボニー材のトリムも特徴だ。そのすべてが運転するという行為を、洗練された信じられないほどイージーなものに感じさせてくれる。

 

 だからといって、パイプとスリッパーが似合うような空間というわけではない。V6エンジンは中低速でも、その素性を表すような、恐ろしいうなり声を発していた。天気がもっと穏やかだったら、エンジンをぶん回して走り込んでいただろう。しかし今回は、豪華なゼニアのインテリアですっかり満足してしまった。

 

 

 

 

 今回私が運転したレヴァンテ グランルッソのスペシャル・バージョンには、“ブルーノービレ”と呼ばれるトリプルコート・ペイントで塗装され、20インチのアロイ・ホイール、リア・プライバシー・ガラス、バウワー&ウィルキンスのサラウンド・サウンドシステムなどが装備されていた。

 

 また、ブラインドスポット・アラート、アドバンスド・ブレーキ・アシスト、道路標識認識システム、ストップ&ゴー付きアダプティブ・クルーズ・コントロールなどのアクティブ・セーフティ・システムを擁した、ドライバー・アシスタンス・パックが追加されていた。

 

 これまであまりこういったシステムを使ったことがなかった私は、これらのハイテク装備を徹底的に楽しんだ。15時間を超えてからの高速道路のドライブでは、ハリボーのグミとビリー・アイリッシュのプレイリストが私を和ませてくれた(両方とも私の11歳になる娘が用意してくれた)。

 

 このレヴァンテ S グランルッソの英国での価格は£92,105である。数多ある高級SUVの中で、個人的にはこのクルマのデザインが一番いいと思うが、グレン・シースキー場に向かう道中での経験は、このクルマがただの“プリティ・フェイス”ではないことを証明してくれた。

 

 

Maserati Levante S GranLusso/マセラティ レヴァンテ S グランルッソ

全長✕全幅✕全高:5,000✕1,985✕1,680 mm

エンジン:V6 2,979 cc

最高出力:430 ps/5,750 rpm

最大トルク:580 Nm/1,750-5,000 rpm

最高速度:264 km/h

0-100km/h 加速:5.2秒