April 2019

WILL&TESTAMENT

稀代の怪優ウィレム・デフォー

text tom chamberlin photography michael schwartz
fashion direction jo grzeszczuk Special thanks to The Carlyle Hotel, New York

 デフォーは商業的意義よりも歴史的意義として画期的な映画、『生きるために』(1989年)で主演を務めることになった。この作品は、アウシュビッツで自分と同じ被収容者を相手に命がけの試合をさせられた、ユダヤ系ギリシャ人ボクサーのサラモ・アラウチを描いている。残念なことに米国や欧州政治において反ユダヤ主義が再び蔓延しているように見える今日、この物語の恐ろしさについて再考するのは時宜にかなっているように思う。

「あれは重要な作品だった。撮影場所が演技に大きな影響を与えるから、ほとんどをアウシュビッツで撮影したんだ。とてつもない人生経験だった。実際にホロコーストを経験した人々に接したからね。当事者の物語は、どんなときも説得力がある。『プラトーン』でも同じようなことがあった。大勢のベトナム帰還兵と撮影をともにしたんだけど、オリバーは僕たちに、彼らの証言するとおりに演じるよう指示したんだ。だから撮影地はとても重要だ。誰かが歩いた道を歩くとき、その人は確かな拠り所となってくれる」

どんな役にもはまる理由 1990年代以降もデフォーは多才ぶりを発揮した。『ワイルド・アット・ハート』(1990年)では、歯の状態が悲惨で不快なキャラクターを演じ、『今そこにある危機』(1994年)ではCIA諜報員に扮し、『処刑人』(1999年)では洞察力に優れた捜査官役を務めた。『アメリカン・サイコ』(2000年)では、きざな探偵として無駄を削ぎ落とした演技をし、主演のクリスチャン・ベイルを巧みに際立たせた。そして同年の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』で、2度目のアカデミー助演男優賞ノミネートを果たした。

 ほどなくしてデフォーは大役を獲得する。当時史上7位の興行収入を記録した『スパイダーマン』(2002年)は、トビー・マグワイアのキャリアに弾みをつけ、アクションシーンに無限の可能性をもたらすCG時代の幕を開いた。デフォーが演じたのは、スパイダーマンと敵対するグリーン・ゴブリンだ。愛する人を失い二重人格となった悪意を宿す実業家で、デフォーのシャープな顔立ちと凄みのある薄笑いがぴったりのはまり役だった。

本記事は2019年1月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 26

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