November 2019
THE SINGAPORE SCENE vol.02
シンガポールのクラシックが面白い vol.02
多国籍文化が混じり合う、世界一のジェットセッター都市であるシンガポールのスタイルとは?
photography gerald low
河村浩三(左)コロニー クロージング ファウンダー
1975年生まれ。ビームスに17年間勤務したのち、シンガポールに移住し、2014年にコロニー クロージングをオープン。クラシックとさまざまなカルチャーをミックスさせた、シンガポールならではのラグジュアリーなファッションを世界に発信している。
ピーター・リー(中央)プラナカン博物館館長
1963年生まれ。プラナカンから始まり、世界のファッションのルーツを研究している、シンガポール政府から最も認められている人物のひとり。世界中を旅してコレクションを蒐集しており、多くの美術館や博物館にそれらの貴重な一部を寄贈している。
秋吉英樹(右)マーケティング コンサルタント
1964年生まれ。96年に会社を設立し、シンガポール首相府の仕事を中心に、飲食店、スポーツマネージメント会社を経営。2006年にセミリタイア。今も同国政府と強いパイプを持つ。常に世界中を旅するスーパージェットセッター。
河村 自分はアメリカとかイタリアとかヨーロッパの文化が大好きで、本物とは何かというのをずっと追求してきました。その中で行き着いたのがシンガポールだったんです。欧米のスタイルだけではもの足りなくなり、今はアメリカやヨーロッパやアジアのものがクロスオーバーしているのが面白いと思うんです。さまざまな人種の人たちが生活しているシンガポールに実際住んでみると、さらに強くそれを感じます。
リー 今までのルールを壊したときにファッションは動くんですよね。ヨーロッパだけでなく、着る文化はアジアの各国でも同じようにあるわけです。歴史的に見ても、ファッションのルールを破ろうとする人、それをよしとしない人、追従する人たちがいて、その押し問答があるわけですが、新しいものは常にそういった中から生まれていきます。むしろみんなが間違っている、と思うときに新しいファッションは生まれるんですよね。
さまざまなカルチャーの
ミックススタイル河村 今まさにシンガポールはそういう状況になっていて、自分は新しいラグジュアリーを提案したいと思って4年間かけてそれをやってきたんですけど、ここ1年くらいでそれがすごく受け入れられるようになってきました。
秋吉 30年前にシンガポールに通い始めて面白いなと思ったのは、その当時からイタリアン ヴォーグもアメリカン ヴォーグも普通に読まれていて、日本よりもダイレクトに情報が浸透していることでした。今、新しい世代の人たちが登場し始めていますけれど、言葉の壁がないぶんいろいろなものを吸収しやすいですし、アジアという土地、そしてこの熱帯雨林気候の中で、それは必然的に独自のものへと進化を遂げていくわけですよね。そこがとても面白い。
モノ作りにおいても
新しい世代が現れている河村 英語も中国語も使えるシンガポールのファッションは混じり方もユニークです。アメリカやヨーロッパのものに対して憧れすぎていないので、いろいろなものをフラットに受け入れられるし固定観念がないので、新しいことがポンと生まれるんですよね。シンガポールでハンドメイドのネクタイを自分たちで作っているヴァンダ ファイン クロージング(P114)のジェラルド・シェンなんて、インターネットでネクタイ作りの動画を見て作り方を覚えたそうです。英国やイタリアのシルクを使う一方で、インドの手織りシルクの生地を使っていたりもします。それをショップに卸すのではなく、自分たちでインターネットを通して世界中のお客さんに販売しているわけです。
リー 本当に? それは素晴らしい人たちが現れましたね。
秋吉 シンガポールの気候だと、ヨーロッパとか日本のスタイルそのままだとすごく汗だくになるし、だから素材やディテールにも違いが出て、当然着方も変わってくるわけです。シンガポールを象徴するプラナカン文化というのはまさにそういった背景があって生まれてきたものだと思うんです。そのときのライフスタイルに合わせていろいろな要素が混じり合って、新しいものが生まれるという。
リー アジアのコロニアルファッションも100年前はとてもアヴァンギャルドで、中国系のブラウスにスーツを合わせたりしていて、それがひとつのスタイルだったんです。今、シンガポールに新しいテーラーが生まれてきている中で、自分たちのアイデンティティは何なのか、それを学び直し、どのように表現したらいいのか考える時期に差し掛かっていると思います。自然にそれができている人たちもいますし、もしそれができれば、それは世界から見てもより魅力のあるものになるでしょう。
新しいカタチの
ラグジュアリーの発案河村 話は変わりますが、アレクサンダー・ハッシャーというシンガポール在住のドイツ人がやっているザッコというブランドがあるんですけど、彼はヨーロッパのブランドのプロダクトマネージャーを歴任してきた人で、イギリスでデザインしてナポリで仕立てたジャケットをシンガポール発信で売っているんです。芯地を省いた小さく畳めるシワになりにくいジャケットを12色展開していて、コロニー クロージングは例外として扱っていますが、これもまたインターネットのみで販売しているという。まさに秋吉さんのように、毎週世界中を飛び回っている人のためにあるような服です。
秋吉 ああ、ザッコは新しいですよね。確かにシンガポールでは、ジェットセッターの存在は決して珍しくありません。むしろ当たり前の存在で、そういった人たちのライフスタイルにとても合っていると思います。かっちりした服だけがラグジュアリーではなくて、生活に基づいた、自分が快適でいられるためのラグジュアリーという選択肢もあるんだよ、という。
リー この土地で生まれるブランドにはやはりそれなりの理由があるわけで、それは新しいシンガポールらしさといえるかもしれませんね。
秋吉 頻繁に世界を旅するとなると、パッキングはとても悩ましい問題で、昼の格好、夜の格好を考えると、コンパクトに畳める服というのはとても重宝します。自分のように50歳も過ぎてくると、頑張るよりも余裕が欲しくなってくるというのもあります。
自分たちらしさを大切にした
気候風土に根差した服河村 混ざっているものに対するよさとか、自分たちのアイデンティティをどう表現していくかというのを大切にしていくと面白くなると思います。もともとアジアの人たちが着ていた服もあるし、ケヴィン・シアーのようにそういったものを高い品質と組み合わせて作っていくのも面白い。それもまたシンガポールのスタイルだと思うんです。
秋吉 欧米の真似をするのだけがラグジュアリーではなくなってきていて、もうそこは通り過ぎていいと思います。
河村 本物どうしをかけ合わせて自分たちで何がいいのかを考える時代になってきていて、それは旅、食、服と、すべてにおいていえることなんですよね。
リー 世界に通用するそういった新しい文化がシンガポールから生まれ始めているのはとても嬉しいことですね。
本記事は2018年5月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 22