June 2019

FROM THE HEART

ナポリの、そしてイタリアの宝:“ダルクオーレ”のスーツ

ルイジ・ダルクオーレが弱冠26歳にてサルトリア・ダルクオーレを開いた時、彼はテーラー界の“ニューウェーブ”と言われることを嫌った。あくまでも伝統的なクラフツマンシップにこだわっていたからだ。それから半世紀が経ったが、ハウススタイルはあくまでもトラディショナルだ。
text ben st.george

グレイとライトブルーのチェックが施されたウール・ジャケット。¥258,675(参考価格) Dalcuore by The Rake
ブルーのコットンシャツ Edward Sexton by The Rake
グレイパンツ Ambrosi by The Rake
ネイビーのシルクウール・タイ Salvatore Piccolo by The Rake
https://therake.com/

 紀元前600年、ギリシアの移民たちが、現在のわれわれが“イタリア”と呼ぶ場所の南西部に到着し、ヴェスヴィオ火山の近くに定住を始めた。彼らはそこを“ネアポリス”(=新しい街)と呼んだ。名前に違わず、そこには新しく進取的な人々が集まり、自由闊達な都市として知られていた。ローマの詩人、ヴェルギリウスも魅せられたひとりで、「私が死んだら、この地に埋めてくれ」と懇願し、その願いは叶えられた。

 何世紀もの間、ネアポリスは裕福な人々のリゾートとして賑わった。海岸には豪華なヴィラが立ち並び、王族や貴族たちが羽を伸ばしにやってきた。有名なポジリポの丘の“ポジリポ”とは、ギリシア語の“何もしなくていい”という言葉が由来だという。

ナポリの伝統を受け継ぐ そんなリラックスした雰囲気は、現在のナポリにも残っている。柔らかな素材とソフトな着心地で知られるナポリタン・テーラーも、古代からのナポリの伝統を受け継いでいるのだ。サルトリア・ダルクオーレにおけるルイジ・ダルクオーレの仕事には、一際それが見て取れる。何世紀にもわたって受け継がれてきた“リラックス感”こそ、彼にとって最も大切なものなのだ。

「ナポリではずっとエレガンスというものが追求されてきました」とルイジは言う。

「それらの多くは失われつつありますが、ナポリ製のジャケットの中には、まだそんなエレガンスが息づいているのです」

 ルイジは16歳でテーラーの門を叩いた。比較的遅いスタートだった。当時は10歳以下で弟子入りするのが普通だったのだ。だから最初はとても苦労したという。だが、そんな苦労が彼自身の心と、サルトとしての独自の審美眼を鍛えたという。

「私は服作りのスタートが遅かった。他のテーラーは私の能力を疑ってかかっていました。だから私はひたすら、オーセンティックなスタイルと技術を磨き抜いていったのです」

DIGITAL TECH: DAVID HANSON
PHOTOGRAPHER’S ASSISTANT: VERONICA PEREZ
GROOMING: LUCY HALPERIN
GROOMING ASSISTANT: BETHANY JOHNSON

本記事は2018年7月24日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 23

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