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今買える、世界の名画 Vol.04
アンリ・マティス

The Rakish ART ROOM Vol.04

Friday, September 27th, 2019

20世紀美術の巨匠、アンリ・マティス。フォーヴィスムによる色とかたちの冒険を終え、

「人々を癒す肘掛け椅子のような絵を描きたい」と願った彼の安息の地は、光溢れる南仏ニースだった。

 

 

text setsuko kitani cooperation mizoe art gallery

 

 

窓辺の女

1917年より、冬をニースで過ごすことにしたマティス。コート・ダジュールといえば夏のまばゆい光のイメージがあるが、マティスは冬のリヴィエラの、淡く繊細な光を好んでいた。本作でも窓の外に広がる空と海は鈍色の光に包まれており、室内の落ち着いた空気感とあいまって、ゆったりとした時間の流れが感じられる。キャンバスに油彩 74×59.2cm 1920年制作 ¥800,000,000(税込価格) お問い合わせ:ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com まで

 

 

 紺碧の海が目の前に広がるコート・ダジュール。南仏ニースを愛した芸術家は数多いが、20世紀美術の巨匠アンリ・マティスもまた、この地に魅了された芸術家のひとりであった。南国特有のきらめく光と、鮮やかな色彩。心の平穏と芸術のインスピレーションをもたらしてくれるニースをこよなく愛した彼は、1954年に84歳で亡くなるまで、40年近くをこの地で過ごした。現在、街の中心地近くにあるシミエ地区の丘の上には、マティスの作品と遺愛品をおさめたマティス美術館がそびえ、彼の生前の姿を追うことができる。また、マティスがその内装デザインを死の前年まで制作した有名なロザリオ礼拝堂は、ここから20㎞ほど離れた小村ヴァンスに建っている。

 

「毎朝、目覚めてこの光を見ることに気づいたとき、私は自分の幸運を信じることができませんでした」

 

 1917年、48歳の時に初めてニースを訪れたマティスは、「その輝きにもかかわらず柔らかく繊細な」光に魅了され、以降の冬は温暖なニースで制作し、それ以外の季節は他所で仕事をする二重生活を開始した。

 

《窓辺の女》は、1920年のニース滞在時に、お気に入りのホテル・メディテラネで描かれた作品である。海岸沿いの遊歩道プロムナード・デ・ザングレに面した客室には、地中海を一望できる大きなフランス窓があり、ロココ調の優雅な室内を明るい光で満たしていた。マティスはこの窓辺に、黄色い室内着を羽織ったモデルのアントワネット・アルヌーを立たせている。この時期マティスのモデルをつとめていた彼女は、その前年に彼が描いた一連の絵画、羽飾りのついた帽子の女性のモデルとしても有名だ。

 

 

赤い背景の裸婦

アンリエットがモデルの《赤い背景の裸婦》は、エキ刺繍のある緑のブラウスゾチックなタペストリーに覆われた画面が印象的。この舞台装置は、それまでホテル暮らしだったマティスが、シャルル・フェリックス広場一番地に借りた豪華なアパートにテキスタイルのコレクションを持ち込んで作られた。キャンバスに油彩 55.5×33.6cm 1922年制作 “赤い背景の裸婦”¥1,400,000,000(税込価格)お問い合わせ:ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com

 

 

 生涯に100点以上もの窓のある作品を描いたマティスは、「窓の画家」の異名を持つ。鎧戸や格子なども含め、「窓」は彼にとって、画面に垂直という造形的な要素を与え、内と外を結ぶ重要なモチーフだった。この作品でもいくつもの光景が瀟洒な室内からヨットが浮かぶオフ・シーズンの地中海へと連続し、穏やかな光の中で広がっている。

 

《窓辺の女》に描かれたアントワネット・アルヌーは、1918~20年にかけてマティスのモデルをつとめた地元ニースの女性である。描かれたモデルの多くを同定できるのはマティス芸術の特徴だ。

 

 

上:マティスが最晩年に手がけたロザリオ礼拝堂の仕事では、ステンドグラスはもちろん、燭台や司祭の式服までデザインした。下:マティスが晩年を過ごしたホテル・レジーナの先の、古代ローマ遺跡の中に建つマティス美術館。

 

 

 例えば《窓辺の女》の2年後、《赤い背景の裸婦》でポーズをとっているのは、アンリエット・ダリカレール。もとはダンサーで、引き締まった肉体の持主だった彼女は、マティスのモデルを7年間つとめた。1920年代、マティスは、「オダリスク」(ハーレムの女奴隷)という官能的なテーマを探求することになるが、このシリーズは、まさに彼がアンリエットに出会ってから始まった。

 

 マティスの最も重要なモデルといえば、《刺繍のある緑のブラウス》に描かれたリディア・デレクトルスカヤだろう。《夢》(1935年、ポンピドゥーセンター)や、《大きな横たわる裸婦(バラ色の裸婦)》(同、ボルティモア美術館)など名だたる作品に登場する彼女は、1932年、マティスの制作助手と彼の病身の妻を手助けするために雇われた。その後はマティスのためにポーズをとるようになり、彼が亡くなるまでモデル兼秘書として支えた。

 

 

刺繍のある緑のブラウス

《刺繍のある緑のブラウス》のリディアは、《ルーマニアのブラウス》や《青いブラウス》などでもモデルをつとめた。板に油彩 16.1×22cm 1936年制作 ¥700,000,000(税込価格)お問い合わせ:ザ・レイク・ジャパン info@therakejapan.com

 

 

 また有能な彼女は、この時期マティスが制作した作品の資料として、写真やメモ、アトリエでの会話を残しており、1988年には、それらを『Apparent Ease ―アンリ・マティスの作品1935-1936年―』として出版した。巨匠の制作過程を知ることができるこの本によると、《刺繍のある緑のブラウス》の制作時、マティスはリディアに何度もポーズをとらせ、色とかたちの研究に没頭していたことがわかっている。

 

 

アンリ・マティス/HENRI MATISSE(1869-1954)

パブロ・ピカソと並ぶ20世紀美術の巨匠。20世紀初頭、点描主義やフォーヴィスムの実験をした彼は、40代後半に制作の場をニースに移し、大胆な色とかたちによる装飾的な造形を探求。その集大成として切り絵による『ジャズ』のシリーズなどを生み出した。また最晩年には、南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂の室内装飾を手がけた。

 


<マティスとモネの名作が一堂に会す展覧会>

今回ご紹介したマティスの3作品が出品される展覧会が、箱根のポーラ美術館にて開催予定。

※《窓辺の女》は、展示期間が限られます。

 

「モネとマティス-アルカディア、あるいは楽園の創出」展(仮称)

会場:ポーラ美術館 期間:2020年4月23日(木)~11月3日(火)

*ご紹介した絵画はすぐにご購入いただけますが、決定している展覧会への出品についてはお貸し出しをご了承いただけますようお願いいたします。

 


<《窓辺の女》が鑑賞できる展覧会>

マティスの《窓辺の女》など、「窓」をモチーフとした作品を紹介。それらを手が

かりに、世界の窓の歴史から名建築の窓まで、さまざまな切り口で考察する。

 

「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」

東京国立近代美術館 2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 2020年7月11日(土)~9月27日(日)

 

 


 

<本連載の記事は以下より>

Vol.01 マルク・シャガール

Vol.02 ワシリー・カンディンスキー

Vol.03 モイーズ・キスリング

Vol.04 アンリ・マティス

Vol.05 パブロ・ピカソ