From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

出世する人ほど、下積みを大切にしている
西村隆さん

Sunday, March 10th, 2019

西村隆さん

 某ラグジュアリーウォッチ・ブランド ブランド・ディレクター

text kentaro matsuo  photography tatsuya ozawa

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ラグジュアリーウォッチ・ブランド・ディレクターの西村隆さんのご登場です。ブランド・ディレクターというのは、欧州風の言葉で、実際には“日本のトップ”ということになります。若干40歳でこのポジションに就かれたというのは、業界でも異例の若さだと思います。

 

「ニッシーは、当時から優秀だった。そしていつも上を目指していた・・」と上から目線でモノ申しているのは、何を隠そう私のヨメです。西村さんと愚妻はイタリアの老舗ブランド、エルメネジルド ゼニアにて同僚で、いつも昼食をともにしていた“ラン友”だったそうです。

「お洒落な人が多かったゼニアの中でも、彼は一際こだわっていた」とも。

メンズ・ラグジュアリー業界には、ゼニア出身の方が多く、独自のネットワークを持っています。通称“Z会”。何がどこからバレるかわからないのが、この業界のコワさです。

 

「大学を出て、初めて入社したのがゼニアだったのです。最初はショップの販売員でした」

そして銀座店の名物店長、林博文さん(現ダンヒル銀座店)の下へ就かれます。

「林さんには、いろいろと教えて頂きました。どうやったらモノを売ることが出来るのか、イチから勉強をさせて頂きました。例えば、ゼニアのシャツの袖丈は長いのですが、お客様に『お客様にはシャツの袖が長すぎますから、お直しをさせて頂きます』と言ったら、結局買ってもらえなかった。自分には合わないモノだと思われたのでしょう。林さんにこの話をすると、『もしも“当店のシャツの袖は、さまざまな方に合うよう長めに作ってありますから、必ずお直しが必要なのです”と言っていたら、違っていたかもね』と教えてくれました。まさに目からウロコの思いでした」

う〜む、深い〜話ですねぇ。この時代の経験が、ブランド代表になった今も、大きな糧になっているそうです。

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スーツはダンヒルのオーダーメイド。

「英国風のピークトラペル、1つボタン、チェンジポケット付きが私の基本スタイルです」

シャツもダンヒル。よく見ると、ターンナップ・カフです。

 

ネクタイはステファノ・ビジ。

「タイの9割はソリッドですね。私は気に入ると同じアイテムを2つ3つと買ってしまうのです。紺のニットタイは同じモノを3本持っていますし、シャツや靴も同様です。いつも同じ格好をしていると思われているかも知れませんが、実は違うのです(笑)」

いつもこのブログで言っていることですが、お洒落な人ほど、こうですよね。

 

メガネは999.9(フォーナインズ)

 

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時計は、ブランパンのクラシック・ライン“ヴィルレ”。モノプッシャーのクロノグラフ、コンプリート・カレンダー、ムーンフェイズ付きという素敵な一本。蛇行したサーペント針とムーンフェイズの“顔”が、味があって実にいい。

「“世界最古の時計ブランド”というバリューは、かけがえのないものです。すべての時計を、自社一貫生産で作るクオリティは素晴らしい。スイスの工房の職人たちは、ものすごく複雑な作業を、ものすごく長い間、ものすごく正確に行なっている。自分だったら、すぐに気が狂ってしまうでしょう(笑)」

 

シューズは、クロケット&ジョーンズ。他にクレバリーやグリーンもお好みで、やはり同じモノを(色まで同じ)数足持っているそうです。

「エラスティックを使ったローファーやブーツが好きで、先日もノーザンプトンへ行く友人に、サイドゴア・ブーツの買い物を頼んだら、『サイドゴア屋でもやるんですか?』と笑われました」

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さて西村さんは、ゼニアのス・ミズーラ部を経た後、ダンヒルにも在籍されていました。まさにメンズ・ファッションの王道を歩まれて来た方です。

「ゼニア、ダンヒルを通じて、ずっとオーダーメイドに関わっていました。ですから、スーツやジャケットは、オーダー品でなければ満足できません。細かいところが気になるのです」

自らも大勢の人の採寸をしてきた西村さんは、ちょっとしたポイントでスーツ姿の印象は大きく変わるといいます。

「私はずっとサッカーをやっていたので、お尻が大きい。それを隠すために、サイドベンツの長さを普通より4cmも長くしています。またふくらはぎも太いので、膝から裾までのパンツ幅をほぼ同じとし、すっきりと見せるようにしています。裾幅は22cmくらいでしょうか。そういうところが、気になって仕方ないのです」

 

ス・ミズーラのプロモーターになってからは、ショップ・スタッフの教育もご担当されました。

「電車に乗ったら、周りにいるサラリーマンをよく観察して“ああやったらいい、こうやったらいい”といろいろ考えろと教えました。例えば、吊り革に掴まっていて、身頃が大きく上がってしまっていたら、それはアームホールが大きすぎるのです」

 

電車の中でいやにスーツ姿の男性を凝視している人がいたら、それは西村さんの教え子かも知れませんね。「出世する人ほど、下積みを大切にしている」という世の中の真実を、体現しているような方でした。

 

 

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