From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

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工藤光一さん

工藤光一さん

 

モリッツ・グロスマン・ジャパン代表取締役

 

interview kentaro matsuo photography tatsuya ozawa

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 モリッツ・グロスマンという時計をご存知でしょうか? ドイツ、グラスヒュッテに本拠を置く、知る人ぞ知る逸品で、その特徴は、「とにかく作りがいい」ことです。ムーブメントをはじめとする各パーツを、ドイツ人の執拗さで、異常なほど丁寧に作っています。最廉価のモデルでも三百万円近いのに、時計に詳しい人ほど、「安い」と言うのです。

さて、そんなこだわりのブランドの代表が、やはりこだわりの人、工藤光一さんです。

「このブティックはもともと印刷工場で、天井高は7メートルもあるんです。オブジェとしてドイツのハイデルベルグ社の活版印刷機プラテンT型や、坂本龍一さんも愛用しているムジークエレクトロニクスガイザインのスピーカー、グロスマンの弟子が振り子を作ったレンツキルヒ社の柱時計などを置いてみました。いかがでしょうか?」

文京区・播磨坂という場所が、いかにも通好みですね。古くからの東京を知る人にとっては、憧憬の地でありましょう。個人的にはこの店は、いまの東京で“一番イケてるショップ”だと思います。

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ジャケットは、ナポリのコスタンティーノでオーダーしたもの。実は工藤さんは以前、コスタンティーノの日本代表をなさっていたこともあります。

「オーダーならではの、吸い付くような良さがありますね。まさに皮膚のような感覚で着られるジャケットです」

 

シャツは、ジャパン・ブランドのコロナ。ブルックス ブラザーズのボタンダウンの衿型をトレースしてはいるものの、衿先に穴が開いていないというヒネりが利いたモノ。

 

ウール・タイはアメリカのニューメキシコ州製の50年代あたりのデッドストックで、チマヨと呼ばれる土着的なブランケットなどと同じ織機で織られているとか。

 

ニットはJ.プレス。アメリカにメールオーダーして買ったもの。

 

メガネは森下にある、アイセンターという店で買ったデットストック。

「ここは服飾評論家の池田哲也さんに教えてもらいました。全然おしゃれな店ではないんですが、昔のデッドストックがいっぱいあるんです」

池田さんとは、もうずいぶん昔からのお知り合いだとか。洒落者あるところ、池田あり、ですね。

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 時計は、もちろんモリッツ・グロスマン。ここの代表作といえる、ベヌーというモデルです。

「100本限定だったのですが、あっという間に売り切れてしまいました。慌てて日本限定で追加オーダーしました」

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ジーンズは、岡山デニムを使うニューヨークのこだわりブランド、ジーンショップ。

 

シューズは、エドワード・グリーンの名作ドーヴァー。スエードは珍しいですね。

「昔、UA本店の向かいにあった、マリナ・ド・ブルボンで、もう20年くらい前に買いました」

ブルボン、懐かしいなぁ。私も大好きな店でした。店内にたくさんの飛行機の模型が飾ってあったのを思い出します。

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  うーむ。普通時計業界の人は?(ハテナ)なファッション・センスの方が多いのですが、工藤さんは、プロ顔負けのファッショニスタです。話の端々に出て来ましたが、実は工藤さんは、アパレルで働いていた経験も長いのです。

「人生のキャリアのうち、半分がファッションで、半分が時計です」

神田のS&Jハイストンを皮切りに、インターブリッジ、エリオポール、そしてコスタンティーノなど、数々のブランドを渡り歩いて来られました。

時計のほうも、フランク・ミュラー、ランゲ&ゾーネ、シェルマン、ロジェ・デュブイ、ユリス・ナルダン、モーリス・ラクロワ、パルミジャーニなど、まさにキラ星のごとき経歴をお持ちです。

 

そんな彼が、「心底惚れ込みました」という、グロスマン。その世界観を覗き見しに、ぜひショップを訪ねてみて下さい。

福市得雄さん

福市得雄さん

 Lexus International President

Interview kentaro matsuo  photography tatsuya ozawa

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いや〜、それにしても、今日は緊張しました。何しろ、日本一の規模を誇る大会社、トヨタの専務にしてデザイン部門のトップ、そして世界に冠たるラグジュアリー・ブランド、レクサスのプレジデントの方とお会いするのですから。

撮影をしたのは、愛知県豊田市トヨタ町1番地(トヨタ町という住所があるのですね)に位置する、トヨタの本拠地。その中でも、トップ・シークレットに包まれた、デザインセンターの内部です。

 

「社外の方が入ることは、あまりないのです」という担当の方の言葉通り、幾重ものセキュリティに守られた中枢部には、これから発表されるはずの開発中のクルマの、極秘のデザイン画やクレイモデルが収められています。撮影機能付きのスマートフォンは、すべて事前に、受付に備えられたボックスへ預けなければいけないほどの厳重さです。

 

「これは、大変なところへ来てしまった・・」とビクビクしているところへ、颯爽と福市さんは現れました。居丈高な大会社のエグゼクティブを想像して、小さくなっている私に、開口一番仰ったセリフ、それは、

「いやぁ、私は勉強が出来なくてねぇ。小さい頃から内弁慶で、恥ずかしがり屋。3人兄弟の末っ子で、2人の兄は優等生。彼らは、朝から晩まで勉強しているんですよ。僕は、とてもそんなこと出来なかったなぁ・・・」というもの。

「あれ、この人、何かが違うな?」と思ったそばから、多摩美時代、アメリカ〜ヨーロッパ横断旅行、トヨタ入社に至るまで、抱腹絶倒のエピソードの連続です。

 

「絵を描くことは大好きだったけど、勉強は大嫌いでした。ムサ美(武蔵野美術大学)は学科で落ちた。芸大は3次まで行ったけど、これまた面接と学科で落ちた。ところが多摩美は、私が受験した年だけ、なんと学科試験がなかった。だから受かったんです(笑)」

 

私がお会いする前に抱いていた、大会社の重役といったイメージは薄れ、なんだか昔“ちょいワル”だった、面白い先輩の話を聞いているような気分になって来ました。

 

「若い頃は、よくクルマで夜遊びに出かけていました。毎日夕方から出て行って、翌朝の3時、4時に帰って来るような生活です。原宿あたりで、随分悪いこともしましたね・・。たまに夜9時くらいに家に戻ると、母親が『どうしたの? 今日は随分早いわね。体、大丈夫?』と、逆に心配するほどでした(笑)」

 

どうやら、このプレジデント、思った以上にフランクで、ウィッティで、いわゆる“大企業的”なイメージとは、正反対の人物のようです。それは、着ているものからも伝わって来ます。

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 スーツは、リチャード・ジェームス。生地が気に入り、購入したもの。

「スーツは、フルオーダーにするとダメだと思うんです。モデルのような体だったらいいのだろうけれど、そうではないと、どんどんバランスが悪くなる。スーツに自分を合わせるくらいの気持ちでいないと」

なるほど福市さんは、60代半ばという年齢が、とても信じられないほどスリムです。ご趣味として続けられている、テニスのおかげだとか。

 

タイとポケットチーフは、大阪発のこだわりブランド、ラクアアンドシーにて。

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 カフリンクスは、豊田市内のセレクトショップ、STandにて購入したもの。リモージュの磁器製なのだそうです。クルマの街、豊田にも、とてもお洒落な店があるのですね。

 

時計はヴェンペのクロノメーターヴェルケ。1878年創業の歴史を誇る、ドイツ、グラスヒュッテの老舗です。

「デザインが好きで買いました」とさらりと仰っていましたが、実は福市さんは相当な時計マニアで、IWCのパーペチュアル・カレンダーを筆頭に、オメガ、ジラール・ペルゴ、ブライトリング、そして数々のアンティークなど、何十本ものコレクションをお持ちです。

「毎年ジュネーブモーターショーに行くついでに、スイスの時計工房巡りをしているんです。ウブロへ行ったときは、時計が一つ一つ手作りされているのに驚きました。オメガの工場には、大規模なラインがあって、ちょっとトヨタに似ているな、と思いましたね」

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シューズは、ドルチェ&ガッバーナ。

「イタリアの靴はフィット感がよく、履き心地がいい。履く時“プシュッ”と音がするのです」

福市さんは、靴に対しても相当なこだわりをお持ちで、イタリア、英国物を中心に7〜80足ほどコレクションなさっています。

「黒い靴はあまり履かないのです。茶色や赤茶が多いですね。でもトヨタの役員で、そんな色の靴を履いているのは、私くらいです(笑)」

はい、失礼ながら私も、トヨタの役員の方というのは、黒い靴を履いて、髪を七三分けにしているような人たちだと思っていました。

 

「ファッションのポリシーは?」との問いには、

「私はいつも朝4時半から5時の間に目が覚めるのですが、布団の中で『今日何を着るのか、どんなコーディネイトをするのか』を、30分くらいかけて考えます。その時『今日どんな人に会うのか』を思い出して、その相手に合わせた装いをするのです。そこで必ずすること、それは相手が私に対して抱いているであろう期待を、ちょっとだけハズすということです。私が大切にしているのは“意外性”ということですね」

 

それはファッションのみならず、本業のカーデザインの分野でも、遺憾なく発揮されているようです。

「かつて、あるクルマのグリルをリニューアルした時、役員から『これは、やり過ぎじゃないか』という声が上がったことがあります。そこで私は、『しばらく見ていれば、慣れますよ』と言い返しました。そうしたら、本当にしばらくして、役員用のツィッターに、その役員から『しばらく見たら、慣れました』と書き込みがありました(笑)」

 

ユーモアを交えて、自らの生い立ちを語っていた福市さんも、話がデザインのことになると、熱いパッションをたぎらせます。

 

「デザインをやる以上は、美形よりも“魅力”を追求しなければなりません。すべてに整っている無個性なモデルよりも、印象に残るハリウッド女優を目指すべきなのです。魅力的な女優は、すべて個性的でしょう? 例えばタラコのような唇をしていても、それが個性となり、魅力となる。クルマのデザインも、それと同じです」

 

なるほど、福市さんのような方が作るクルマなら、今までの日本車を超えた、個性溢れる存在となりそうです。ずっと国産車に興味がなかった私も、最近のレクサスには、抗い難い魅力を感じていましたが、今日その理由は、福市得雄さんその人にあるとわかりました。