Takeshi Sekiguchi Interview Vol.2

「カシヤマ ザ・スマートテーラー」が
自分だけの一着のために
目指したこと。

May 2018

オンワードパーソナルスタイル代表取締役社長

関口 猛氏 インタビュー

 

text yasuyuki ikeda(zeroyon) photography ikuo kubota(OWL)

 

Takeshi Sekiguchi 関口

1995 年、オンワード樫山入社。インポートブランドのライセンスビジネスに長く携わる。2012年より五大陸ブランドに携わり、2017年、オンワードパーソナルスタイル代表取締役に就任。同年10月、採寸から納期まで最短一週間というこれまでにないオーダースーツシステム、カシヤマ ザ・スマートテーラーをローンチさせた。

 

 

 

 2017年10月、新たなオーダースーツブランドが誕生した。「カシヤマ ザ・スマートテーラー」は、一度オーダーしたスーツのデータをクラウド共有することで、次回からはオンライン上で注文できる、いま流行りのサービスである。最初のオーダーを店舗で採寸してもらうのか、自宅や職場にフィッターに出張採寸してもらうのかを選ぶことができ、さらに採寸から納品まで最短一週間という脅威のスピードを実現している点は他店のオーダースーツとは一線を画す。

 

 

  Q.カシヤマ ザ・スマートテーラーとは、どのようなオーダーシステムですか?

 

「一般的なビジネスマンが週末に採寸して、次の週末に届いたスーツを翌月曜から着られることをイメージして、そこから逆算した超短期仕上げのオーダースーツシステムです。従来のオーダーシステムの時間のかかる箇所をITと自社資源を最大限に活用することで、お客様の“今すぐ着たい”を可能にしました。

 webでご予約いただいたら、プロのフィッターに採寸してもらい、生地やディテールデザインを選びます。採寸は店舗にお越しいただくか、あるいはフィッターがお客様の職場やご自宅に伺うこともできます。採寸から最短1週間でスーツがお手元に届くのは、世界中探してもカシヤマ ザ・スマートテーラーしかありません。

 スーツは、まるで真空パックのように特殊なパッキングシステム、『パックランナー』で届きます。繊維中の水分を抜いて封入してあるので、開封してハンガーで吊るしておけば徐々に繊維が空気中の水分を取り入れて、約一時間で型くずれのないスーツに回復します。普通に畳んで運搬するよりシワになりにくいですし、お急ぎでしたらスチーマーをあてれば、すぐにでも着られるようになります。

 着たいと思ってオーダーしても、実際にスーツが仕上がるのに何ヶ月もかかるようでは、トレンドや流行も変わってしまうかもしれませんし、なによりそのときの高揚感が薄れてしまいかねません。忘れていた頃にスーツが届いて、こんなのだったっけ?と思うことは、オーダー慣れした方ほどご経験があるのではないでしょうか。

 一週間納品なら既製品の袖丈やパンツの裾丈をお直しする感覚ですし、着たいと思った気持ちにそのままフィットします。3万円〜という価格設定は、スーツを何着もオーダーするのにも適していますし、2着目からはお客様のパーソナルデータをクラウド共有できるので来店も採寸も不要です。次はダブルにしようとか、パンツのシルエットを細身にしたいなど、ご自身で修正することも可能です。オーダーというより、気軽にカスタムできるスーツと捉えていただけることでしょう」

 

 

仕上がったスーツは真空パックのような特殊なパッキング「パックランナー」で届けられる。「開封したらハンガーに吊るしておくだけで型くずれなく回復する」といわれても、はじめは信じられないかもしれない。しかし実際、目の当たりにすれば不安はすぐに消え去るはずだ。

 

 

 

  Q.驚異的な1週間という納期は、実際どのように構築されたのでしょうか?

 

「スーツを仕立てる工程は既に完成していましたので、従来のオーダーシステムの入口と出口を改革しました。

 入口としては採寸データを工場に送信して型紙を起こすまでの一貫したシステムを開発しました。これにはオンワード樫山が有する、膨大な型紙のデータが役立っています。従来ではオーダーシートをメールやファクスで工場に送り、オペレーターが間違いを回避するために2度入力していました。不都合があれば電話で確認することもあり、そこから型紙を起こすので、さらに数日。裁断に取り掛かるまでに3〜4日を要してしまいます。

 出口としての改革は、海外の自社工場で仕立てたスーツを現地で検品まで行うこと。空港までの配送も自社便を用意していますし、お客様に商品を直送できる物流システムを確立したことも時短につながっています。海外の提携工場から送られてきたスーツを、国内で一箇所に集積して検品作業を行うという従来の方式では発送までにさらに日数がかかりますので。

 すべての面で最新技術を導入することで、オーダースーツという旧態依然にみえる服を、もっとも進化した服にすることができたといっていいでしょう」

 

 

既製品が登場する前の時代に一般的だった、注文服、仕立て服といった、もっとも旧態な服飾のシステムを、カシヤマ ザ・スマートテーラーのIT技術と物流革命が、もっとも最新式の服へと変換する。

 

 

 

  Q.今後、オーダースーツの未来はどのように進化していくと思われますか?

 

「個人的には、今後はあらゆるものがカスタマイズできるオーダーサービスが広がっていくだろうと考えています。一般論でいえばトップメゾンと大衆向けの既製服以外は、よりパーソナルなものにカスタム化する傾向が強まっていくと考えています。技術革新により、カスタマイズのコストを削減できる時代になってきたことで、オーダー対応できる分野はさらに広がっていくでしょう。

 カシヤマ ザ・スマートテーラーでは今後はシャツとレディススーツのオーダーを開始する予定です。スーツに限らず、他のアイテムもオーダーできないかを検討しています。また現在、週末は店舗採寸の予約が数カ月先まで埋まってしまうこともありますので、アクセスのよい立地に、お客様のオーダーを受注できる採寸専門のショールームを開く予定もあります。気軽にオーダーできることでオーダースーツがより身近なものとなり、スーツを楽しむ人が増えてくれることを切に願っています」

 

 

カシヤマ ザ・スマートテーラーの店舗は全国13店舗(6月1日よりさらに6ショールームがオープン予定)。来店すれば、通常の生地のほか、インポート生地を選んだり、よりグレードの高い国内縫製に切り替えることもできる。

 

 

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