Jérôme de Lavergnolle Interview

手仕事が担う“伝統”と
メゾンを前進させる“革新”

Friday, July 13th, 2018

 ヨーロッパ大陸最古の歴史を持つ、世界最高峰のクリスタル工房、サンルイ。芸術作品とも呼べる美しい品々は、どのように生み出され、その技術はどのように継承されるのか。サンルイCEOであるジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール氏に伺った。

 

Jérôme de Lavergnolle

ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール

監査法人勤務後、1994年にエルメス・グループに入社。エルメス・グループ各社での財務、監査などの経験を経て、2004年、エルメス・セリエ社のジェネラルマネージャーに就任。2006年よりエルメス・サービス・グループのジェネラルマネージャーとなり、2010年にサンルイのCEOに就任。

 

 

 

 大胆なカット、華麗な金彩、そして繊細な色使い。1586年創業というヨーロッパ大陸最古の歴史を持つクリスタル工房、サンルイの製品に見られる伝統技術は、長い歴史から脈々と受け継がれてきたものだ。そして今もなお、すべてはフランス・ロレーヌ地方にある工房にて生み出されている。

 

「工房での全工程が職人の手仕事によるものです。コストや効率化が重視され、あらゆる製品が工業的に生産される現代ですが、素晴らしい職人の目や手にかなう機械はありません。ですから、私たちメゾンにとっての財産は“人”にあるといえます」

 

 と語るのは、世界最高峰のクリスタル製品で知られるサンルイのCEO、ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール氏だ。職人というと経験を何十年と積み重ねた熟練者を思い浮かべがちだが、社全体の平均年齢は37歳と比較的若い。そこには伝統技術を継承していくという使命から来る理由がある。

 

「技は決して本からだけでは学べません。観察して初めて習得できるもの。だから現場での育成が重要なのです。私はトップとして職人たちの年齢のピラミッドを常に意識しています。熟練の職人の下に、若手の職人をつけて学ばせる。このピラミッドが崩れてしまうと、技術の継承がうまくいかなくなってしまうからです。ですから老若男女のバランスのとれたチーム編成を行なっています」

 

 

折り目正しい人柄だが、時折冗談を交えるユーモアを持ち合わせるドゥ・ラヴェルニョール氏。サンルイがエルメス・グループの一員として共有している価値観を尋ねると、「品質に妥協しないこと。職人魂によって支えられていること。そして、“伝統”と“革新”の融合。その3つの柱です」。

 

 

 

 工房は大きく分けてふたつのセクションに分かれている。ひとつはクリスタルの塊をあたため吹くことで形を与えるホットワーク、もうひとつは冷めたその形に装飾やカットを施して仕上げるコールドワークだ。前者は力仕事を含んでいることもあり男性が占めるが、後者は女性も多く在籍し活躍している。何より同社の技の高さを裏付けるのは、フランス国家最優秀職人賞(Meilleurs Ouvriers de France, 以下MOF)の称号を持つ職人を多数抱えていることだ。

 

「フランス文化を継承した優れた職人個人に対して、大統領から直接授与されるのがMOFです。仕事上での経験に加え、仕事とは別でおよそ600時間以上をかけて作品を制作し、非常に厳しい条件をクリアしたもののみが手にすることができる、栄誉ある称号です。弊社では8名のMOF受賞者が在籍しています。また9名が来年取得するべく準備中です」

 

 また、若く優秀な人材の採用にも力を入れている。

 

「フランスにはクリスタルの職人を育成する学校がふたつあるのですが、そこから優秀な学生のみを採用しています。入社後は社内で育成を行いますが、一人前に働けるようになるまで少なくとも10年はかかります。何かひとつ作れるようになればいいというのではなく、すべて作れるようにならなければなりませんので」

 

 職人による伝統技術の継承に力を入れる一方で、モノづくりという側面においては新しい試みや挑戦も欠かさない。400年以上の歴史にとどまることなく前進するためには、“伝統”だけでなく、“革新”も必要になると考えている。

 

「サンルイから“革新”を奪ったら、漕がない自転車と同じです。漕がないと、前に進めず倒れてしまいます。例えば、『フォリア』というコレクションがあるのですが、工房の周りに存在する森や、ある種私たちの歴史の源に遡るテーマをベースとしつつ、モダンなデザインとLEDなどの新鋭の光源を採用しており、“伝統”と“革新”の両面性を持ち合わせています」

 

 

昨年発表された『フォリア』は、デザイナーのノエ・デュショフール=ローランスが工房周辺の森の中でインスピレーションを得て生まれた、自然賛歌のコレクション。テーブルウェアやランプ、家具など25アイテムが展開されている。

 

 

「また、キキ・ファン・アイクというオランダ人デザイナーを招聘した際、私はこう言いました。『デッサンを見せていただく必要はありません。私たちの工房に来て、職人を観察してください』と。すると彼女は工房のあらゆる場所を探索し、昔実際に使われていた古い金属型を見つけてきました。今現在使われている型とのコントラストに感動した彼女は、それを使って新しいランプを作ると言ったのです。そして、モダンなデザインと非常に斬新な機能性を備えた、まったく新しい製品を生み出しました。大切なのは過去と同じものを再度作ることではなく、過去に敬意を表して新しいものを作る、ということなのです」

 

 だから新作発表には毎年力を入れている。特にメゾンの歴史が凝縮された、アイコン的な存在として知られるペーパーウェイトコレクションは、大きさもデザインも技も異なる新作を毎年約5種類ほど、数量限定生産で発表している。

 

「ペーパーウェイトコレクションは、日本では特にご好評いただいています。日本の文化の多くに“職人”の長い歴史があるだけに、日本の方々は私たちの品質に妥協することのない姿勢に共感していただけるDNAをお持ちなのだと感じています」

 

 

ペーパーウェイトコレクションの今年の新作。左から、『おとぎ話の王子様』(50点限定生産。¥607,000)、『桜』(50点限定生産。¥544,000)、『雲』(68点限定生産。¥327,000)、『春』(8点限定生産。¥1,480,000)。いずれもシリアルナンバーと製造年、証明書が付属する。

 

 

「今年のペーパーウェイトの新作をご紹介します。まずは『おとぎ話の王子様』をモチーフとしたペーパーウェイトです。西洋ではカエルにキスをすると魔法が解ける、という可愛らしいストーリーで知られますが、カエルは世界中でさまざまな意味を担う生き物です。鎮座する花壇には、ミルフィオリ技法という非常に難しい技術が込められています。王冠の部分は24金の金彩となっています。こちらは『桜』です。内側に桜の花がありまして、枝が花を包み込むように取り囲んでいます。覗き込むと内側の桜の花が大きく映り込む。まるで魔法のようでしょう? 『雲』はドームの下から太陽の光が見える仕組みになっています。そしてこの最も大きいサイズのものは、『春』という作品です。野菜や植物でポートレイトを描き出した16世紀の画家アルチンボルドの絵画を私たちの技で再現したもので、ひとつひとつの花が手仕事によるバーナーワークの技法によって生み出されています」

 

 

『春』を上から見た写真。繊細なバーナーワークによってつくられた100以上の花をひとつひとつセッティングして作られている。花々が浮かび上がるような深い黒の背景もまた、ジュゼッペ・アルチンボルドの作品と同様だ。

 

 

「好評により今日はご用意できなかったのですが、毎年恒例の干支のシリーズのペーパーウェイトもあります。今年は大変愛くるしいデザインの『犬』です。既にほとんど売れてしまいましたが」

 

 クリスタルのペーパーウェイトは、歴史に名を残す王侯貴族や文人たちをも虜にしてきた。芸術作品かと見紛うようなこの美しい小宇宙の数々を目の前にして、ひとつひとつ丁寧に解説をする氏の目は、まるで少年のように輝いている。それぞれが異なるコンセプトで、異なる技術によって作られているため、語るべきところが溢れるほどあり、話題は尽きない。

 

「よく『社長の仕事って何でしょう?』と聞かれるんですが、物語を語って聞かせることです、と答えています。サンルイの製品にまつわる物語は、枚挙に暇がないですからね」

 

 

サンルイ

03-3569-3300(エルメスジャポン)

www.saint-louis.com/