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ジェレミーのアストンマーティン

Wednesday, September 26th, 2018

あのジェレミー・ハケットが、アストンマーティンの特別仕様車を作った。

英国好きにとって、最高の一台が出来上がった。

 

text nick foulkes  photography kim lang

 

 

 

 もしジェレミー・ハケットがこの世にいなかったなら、日本人は、彼を“発明”しなければいけなかっただろう。かの“菊紋の国”では、何もかもが、ものすごくマジメに行われるのだ。かつて彼らは、天皇陛下を“生き神”として崇めたが、洋服の世界においては、ジェレミーは、もはや天皇レベルだ。彼のスタイルは、いつもお手本にされて来た。

 

 もしジェレミーが、ズボンの裾をまくりあげ、頭にハンカチを巻いて現れたら、次の朝には東京中の洒落者たちが、同じ格好をマネするだろう。六本木ヒルズが“ハケットさん・トラディショナル・ショッピング・ヴィレッジ”と改名されなかったのは、ひとえに彼が控えめすぎたからだろう。

 

 最高の葉巻、ホヨーエピキュアNo.2をふかしながら、彼にそんな褒め言葉を投げかけると、大げさなことが嫌いな彼は、ちょっと照れつつ、「もし本当だったら、大変光栄なことだがね」と笑った。

 

 

 

 私は1980年代のはじめよりジェレミーを知っている。そして過去35年の間、彼はいつ会っても笑顔を絶やさない。

 

 彼のビジネスは、ロンドンのパーソンズ・グリーンで、ヴィンテージ・クローズを売ることから始まった。そしてスローン・スクエアに、ヴィンテージと同じようなテイストとディテールを持った新品を売る店をオープンした。その時の興奮を、私はいまだに忘れない。古着のような新品が、新品と同じような値段で売れるとは、当時誰も思っていなかった。そこは私が初めて天才カッターといわれたテリー・ハーストと出会った場所でもあった。

 

 ハケットのビジネスはトントン拍子に大きくなり、ついにはラグジュアリー・ブランドのコングロマリットであるリシュモン・グループをはじめ、多くの投資を受けるまでになった。

 

 しかし、ジェレミーは“会長”として会社に残り、服飾に対する多くの経験と知識をファンに与え続けた。ブランドの現在のオーナーは、彼の価値をいよいよ重要視しているように思える。彼は世界中を飛び回り、ファッション新興国の人々に、モーニングコートの着こなし方や、どうやって英国傘をきっちりと巻くか、などを教えている。

 

 ロンドンにいる間も、南イングランドにある邸宅で、のんびりしているヒマはない。彼はいつも大忙しだ。まず飼っている犬を散歩に連れて行かなければならない。撮るべき写真もたくさんある。書かなければいけない原稿は山積みだ。お気に入りのレストラン、ロンドンの“ウィルトンズ”でのランチの約束は列をなしている。ダヴィドフのオーナー、フランコは、ジェレミーに試してもらいたいシガーを山ほど用意して、手ぐすね引いて待っている。そして今回、あのアストンマーティンのデザインを手掛けるという仕事もしなければならなくなったのだ。

 

 

 

 アストンマーティンといえば、紳士のためのクルマで、ベントレーの好敵手である。ジェームス・ボンドが、アストンマーティンとベントレーの両方を運転したのは間違いない。数年前、ポロの試合を観に行く際に運転したアストンマーティンは、思いがけずエキサイティングなクルマだった。それはサスペンションのセッティングにこだわり、軽いパワステは邪道だと考えているような、本当のエンスージアストのためのクルマだった。その怪物マシーンと格闘するのは、素晴らしい体験だった。乗り終えた時、私は良質のワークアウトをした後のような気分になった。

 

 幸運なことに、現在のアストンマーティンは、こういったドライビングが大好きなファンたちに支えられている。デザイン・ディレクターのマレク・ライヒマンは、ジェレミーにアプローチし、プロジェクトについての快諾を得た。

 

 ベースとなったのは、アストンマーティン ラピードだ。ラピードはエレガントなクルマである。矢のようなデザインのスポーツカーだ。そして一見ツードアに見えるにもかかわらず、実は巧妙にデザインされた4ドア・クーペなのだ。まさに本物の紳士のためのクルマである。

 

「アストンマーティンと仕事をできるなんて素晴らしいことです。」と彼は言った。

 

「マレクに頼まれて、このプロジェクトとラピードというクルマについて考えてみました。最初に考えたのは、内装をチョーク・ストライプのフランネルにしたらどうかということでした。でも、それでは『ロンドンのシティにいる、お堅い銀行員みたいだな』と思いました。それから気付いたのは、アストンマーティンは、チャールズ皇太子=プリンス・オブ・ウェールズの御用達ブランドでもあるということでした。そこで、彼のトレードマークである、プリンス・オブ・ウェールズ・チェックをインテリアに使うことを思いついたのです」

 

 

 

 そして彼は、思いつくなかで最高のファブリック・メーカーへラピードを走らせた。フォックス ブラザーズである。

 

「私はフォックス ブラザーズが、かつて1950~60年代に、最高級クルマ・ブランドのために内装を手掛けていたことを知っていました。だから、使うならここの生地しかないと思いました。私自身、いつもフォックス ブラザーズの大ファンでもありました。」

 

 かつて、25年ほど前に、ジェレミーと私はフォックス ブラザーズの工場へ出かけたことがあった。当時、窓には第二次大戦中に貼られたテープの跡がまだ残っていた。古い歴史を持つ工場なのだ。

 

「今回、彼らはこの古い生地を持ち出して来ました。そして私は『これだ、完璧だ!』と思いました。それは彼らのアーカイブの中にあった生地で、耐久性と耐火性があり、さまざまなテストをクリアしたものでした。色については、ひとひねりしてみました。ペールブルーのオーバープレイドを入れてみたのです。1950年代の、クラシックなスポーツカーを思わせるような色です。」

 

 ジェレミーは、この色をクルマのエクステリアと、やはりフランネルで張られたヘッドライナーにも使った。

 

 ファブリックのシートはレザーシートよりはるかに上品だ。その昔は、レザーはドライバーズ・シートだけに使われていた。擦り切れに強く、往年の“セダンカ・ドゥ・ヴィル”タイプのように、運転席だけがオープンになっているクルマもあって、雨風に耐えなければならなかったからだ。

 

 例えば数年前、エリザベス女王は、式典用のベントレーを注文するにあたって、パッセンジャーキャビンはファブリックシートにするように注文をつけたという。

 

 女王の息子であるチャールズ皇太子の活動についても、ジェレミーは語った。

 

「ウール・フランネル生地を使ったもうひとつの理由は、チャールズ皇太子が英国産ウールのキャンペーンをやっていることもありました。少しでもいいから、それに協力をしたかったのです」

 

 

 

 王室を愛するジェレミーは、同じプリンス・オブ・ウェールズ・チェックの生地で、スーツも誂えた。

 

「チャールズ皇太子は、いつもダブル・ブレステッドのスーツを着ているでしょう。だから私もダブルにしました。そして袖ボタンは5つにしました。なぜなら、皇太子はウェルシュガーズ近衛連隊の総司令官でもあり、連隊の制服は5つの袖ボタンが特徴だからです。またラペルホールのまわりに小さな当て布をつけました。チャールズ皇太子が、彼の服に当て布をして着ていたことはよく知られていますからね。クルマのパッセンジャー・ドアにも、やはり当て布がしてあります。ちょっとした遊び心です」

 

 22オンスの厚手のフランネル地は、エコロジーにもいいだろう。クルマのヒーターをつけなくても十分に温かいからだ。

 

 

 

 この名作といえる生地で、ジェレミーはアストンマーティンをオマージュしたバッグのシリーズも作った。

 

「クルマのトランクには、ウィークエンド用のバッグが用意してあります。ガンケース・タイプには、3つに分解された旅行用雨傘が入っています。このアイデアはジェームス・ボンドからヒントを得たものです。目的地に着いたら、雨傘をまるで狙撃銃のように組み立てるのです。ちょっとバカバカしいように思われるかもしれませんが、私にとってアストンマーティンとジェームス・ボンドは、切っても切れないものですからね」

 

 

 

 ボンドにインスパイアされたのは、こうもり傘だけではない

 

「今回の私のデザインは、“Qプロジェクト”の一環なのです。今回のプロジェクトのタイトルは“JPH1”でしたが、それは私も気付かないうちにバッジとされ、クルマに取り付けられました。嬉しいサプライズでした。それでこのクルマの1号車はJPH1ということになりましたが、いずれJPH2もお目にかけることができるでしょう」

 

それまでに、日本のアストンマーティンのディーラーは、お客様からのお問い合わせの殺到に対応出来るよう、十分な準備を進めておくべきだろう。

 

 

 

アストンマーティン ジャパン

TEL:03-5797-7281

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