Monday, August 27th, 2018

ZOUGANISTA
– フィレンツェで唯一の木象嵌細工職人

かつてフィレンツェの街のあちこちにいた木象嵌細工職人も、
今では日本人の望月貴文氏ただひとりになってしまった。
そんな中、伝統の技術を新しい形で表現することで多くの人にアプローチする彼の試みが実を結び始めた。
text yuko fujita

望月 貴文 Takafumi Mochizuki
1979年東京都生まれ。大学とインテリアの専門学校を卒業後、家具メーカーに就職。2007年、家具作りとアンティーク家具の修復を学ぶため、フィレンツェに渡る。師事した家具職人から象嵌細工を学び、2014年に独立。日本語とイタリア語を組み合わせた造語で象嵌細工師という意味をもつ工房「ゾウガニスタ」を始動した。

ZOUGANISTA
ゾウガニスタ
Via dei Cardatori,20/r Firenze
mail@zouganista.com zouganista.com
アルノ川を越えた、様々な職人が工房を構えている
サン フレディアーノ地区にある。

伝統を未来に繋ぐ日本人

 ちょうどブリオ ベイジンのジョージ・ワン氏がオーダーしている時計ケースを製作しているところだった。糸のこぎりで厚さ0.7~0.8mmの木を5枚重ね、ミリ単位の木のパーツを切り出していく作業は大変な集中力を要し、同時にとても根気のいる仕事で、これだけでまるまる1週間を費やすという。店内には同じく氏が注文したスケートボードの完成品が2台。ウェンゲとポンメレの木でBRIOの文字の木象嵌が施されている。
 伝統の木象嵌細工に今までにない新しいアプローチをすることで、RAKISHな紳士たちが好みそうなアイテムを生み出している望月貴文氏のクリエーションに、今、世界のウェルドレッサーたちが注目し始めている。昨年フィレンツェにオープンしたタイ ユア タイ フローレンスの店内の主役となっている巨大な箪笥の修復を加賀健二氏に依頼されて手がけ、それにタイ ユア タイのロゴを真鍮の象嵌で施したのは望月氏だ。彼は今日のフィレンツェでただひとりの、木象嵌を生業とする職人である。
 フィレンツェに渡ったのは2007年。以前から憧れていた家具職人を目指してのことだった。師事した家具職人のレナート・オリヴァストリ氏は、昔のフィレンツェの家具職人がそうだったように象嵌のスペシャリストでもあった。欠損パーツの復元や磨き直し、接着など、修復の仕事の一環として象嵌を学んでいくなかで、ベースの木材に「象り」、異なる木材を「嵌める」木象嵌の仕事に、次第に興味を抱くようになっていったという。
 ちょうど取材時にとりかかっていた木を切り出す細かな手作業にその仕事の難しさがあるように思えたが、それよりも木の色に限りがあるなかで、どうコントラストをつけていくかが難しいという。
「嵌める突き板の薄さは0.7~0.8mm。板目や柾目、それに加えてコブがあり、コブには特殊な光沢のある木目が生まれるのですが、それら天然の木目をどのポジションに置いていくか、絵としてどう成り立たせるか、これが実はとても難しい。いつもずっとそのことを考えています」
 絵を思い描いて木を選ぶことのほうが多いが、木目を見つけてからインスピレーションを得ることもあるし、木の組み合わせだけを何カ月も考えて材料を探しまわることもあるという。
「もともと何も作れないところから始まって、それがだんだんといろいろなものが作れるようになってきて。そうすると、もっと難しい注文が入ってくるんです。象嵌の作業自体は時間をかければできるのですが、注文するときはお客様も漠然としたイメージしかなく、その状態から作っていくのでお任せになることが多いんです。お客様の好みやイメージをどう汲んで形にしていくのか、そこが難しくもあり、楽しいところでもあります。そしてそれが徐々にできるようになってきているな、という実感はありますね」
 最近、象嵌を含めての家具製作の仕事も入ってくるようになった。今、木象嵌を生業としているのは彼だけで、職人としてこの仕事を極めていけば、さらに大きな仕事が入ってくるかもしれない。この仕事で成功を収め、木象嵌細工職人になりたいという若い職人を生むことが、自分の使命だとも語る。そうすることで、次世代にフィレンツェ伝統の象嵌技術を繋いでいくことができるからだ。
「嬉しいことに、世界の洒落者たちが自分の仕事に注目し始めてくれています。フィレンツェという街にいるからこそできることもある。もっともっと木象嵌の仕事の可能性を広げていきたいですね」
THE RAKE JAPAN EDITION issue 23

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