Wednesday, February 7th, 2018

THE LIFE TEUTONIC
ゲルマンの遊び人たち

遺伝する浪費癖

 遊び人の三大要素といえば、富、階級、そして快楽主義だが、このうちのふたつが突出していれば3つめはどうでもいいという場合も多い。だが富には、節度という名のとりすました愛人がついてくることもある。バイエルンの億万長者、プリンス・ルパート・ローウェンスタイン(ザ・ローリング・ストーンズの財務マネージャーを長年務めた銀行家であり貴族)はミック・ジャガーやキース・リチャーズといったメンバーとの関係から「ルーピー・ザ・グルーピー」の愛称で親しまれていたが、彼自身は趣味のいい資産家だから同バンドのロックンロールなライフスタイル(やその音楽)には馴染めないと感じていた。
 何しろ、このバイエルン貴族はトリエント・ミサの順守を嘆願するような敬虔で超保守的なカトリック教徒である。聖ジョージ騎士団の審問長官であり、マルタ騎士団の英国支部長でもあった。この点、ローウェンスタインは例外であるが、ザックスやアルフォンソのライフストーリーからは、莫大な富という風を受けながら豪華なヨットで帆走する、富裕なエピキュリアンの人生航路が垣間見える。
 気まぐれなダイナミズムは富裕層の伝説を明らかにするが、もうひとりのデカダン派、プリンス・ヨハネス・フォン・トゥルン・ウント・タクシスにまつわるエピソードを聞くと、ドイツの血を引く富豪の浪費癖は遺伝によるものではないかと思わずにはいられない。
 ヨハネスは、15世紀の創業以来300年にわたってヨーロッパの郵便事業を独占して富を得た一族である。快楽主義の教祖ともいえる彼の人生のクライマックスは、500室もあるザンクト・エメラム城で1986年に自ら主催した60歳のバースデーパーティだろう。
 このパーティでは、ギュンター・ザックスやミック・ジャガーと当時の妻ジェリー・ホールが、サウジアラビアの兵器ディーラーの隣でシャンパンをがぶ飲みし、ロブスターをつまんだ。
 ヨハネスはエキセントリックだった。ドイツで最も裕福な貴族であり、国内最大の地主でもある彼(総資産30億ドル)は、バイセクシュアルで悪ふざけも好きだった。ディナーに下剤を混ぜたり、女性のドレスに死んだニシンを滑り込ませたりといった悪戯を仕掛けたという。
 ヨハネスの銀行ネットワーク、ブルワリー、ブラジルの土地所有会社、ドイツの土地、宮殿、城、美術品を相続した息子のアルベルトが8歳から「最年少ビリオネア」リストの常連になったのも無理はない。いまや33歳になり、レーシングドライバーとして準優勝した経験もあるアルベルトは、父のライフスタイルを受け継ぐにふさわしい後継者といえよう。

愉しむこと=美徳

 ドイツという国、そしてドイツの血を引く膨大な数のホモサピエンス(ドイツ系アメリカ人は5,000万人、ドイツ系ブラジル人は500万人もいる)が、多くの道楽者を輩出しているのは驚くことではない。どんちゃん騒ぎや遊びが好きな気質はドイツの文化に根差している。
 ゲルマン系の民族のひとつであるゴート族は、まるで喉の渇きを癒やすように、退廃的なローマ人の道徳観を受け入れたし、「vandal」(破壊者)という言葉は、5世紀にガリアやスペインの街を侵略したゲルマン民族の一派であるヴァンダル族に由来している。現に、大戦間のベルリンに代表される退廃的な快楽主義は、フリッツ・ラングが1927年に製作したSF映画『メトロポリス』や、ジョセフ・フォン・スタンバーグが監督した『嘆きの天使』、ベルトルト・ブレヒトの舞台『三文オペラ』に生き生きと描かれている。
 ベルリンは今でも、性的な自由や快楽主義、エロティシズムの温床である。「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれてきたドイツでは、公共の場での酒宴が法的に認められているし、小学校では、新入生の登校初日におもちゃやお菓子を詰めたとんがり帽子のような袋が全生徒に配られる。この国では愉しむことが美徳と考えられているのだ。
 ザックス、プリンス・アルフォンソ、エデン、ローウェンスタイン、そしてヨハネス&アルベルトの生き様からはっきりとわかるように、ドイツは堅苦しさや時間を守る几帳面さ、精密なエンジニアリングのみならず、愉しいどんちゃん騒ぎでも評価されるべきだ。事実、ホイジンガがいう「ホモ・ルーデンス」をドイツ語に訳せば「spielen mann」(遊ぶ人)になるのだから。

夫人のグロリアとプリンス・ヨハネス(第36回エイプリル・イン・パリ・ボールにて、1987年)

サンモリッツのパーティからエヴァ・マリア・フォン・メイトをエスコートするプリンス・ヨハネス(1970年代初頭

THE RAKE JAPAN EDITION issue 12
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