Thursday, June 15th, 2017

THE CARDINALE SIN
罪深き美しさ

罪深き美しさ
クラウディア・カルディナーレは、本人曰く“じゃじゃ馬で変わり者”だった。
映画『ピンクの豹』のスターであった彼女の魅力は、セクシュアリティー、知性、慎み深さ、決断力が渾然一体となって生まれたのだ。
text david smiedt

 それはかなり無難な選択肢だった。かつてはクリスマスが来るたびに、世界中のテレビ局が家族で一緒に見られる映画を探した。つまり、“深く愛し合っている大人同士が横になって特別な抱擁をするとき”に何が起きるのかを、父親が説明しなくて済む映画である。そんな条件を満たす選択肢のひとつこそ、『ピンクの豹』シリーズの第1作目だった。ところが同作で、多くの視聴者に大人の世界を垣間見させてくれた女優がいた。タイトル(原題は『The Pink Panther』)の由来となったダイヤモンドを所有する王女を演じたクラウディア・カルディナーレだ。
 まだフランス保護領であったチュニジアで1938年に生まれたカルディナーレは、167センチをわずかに超える背丈の、ずば抜けた均整美を誇るティーンエージャーに成長した。その容姿の美しさは、さしずめ“カーディナル・シン(大いなる罪)”ならぬ“カルディナーレ・シン”とでもいったところだろうか。

脱がないポリシー

 戦時代の若きニンフたちの例に漏れず、カルディナーレも美人コンテストで発掘されて映画女優になった。彼女はまさに逸材と呼ぶにふさわしい美女だった。ソフィア・ローレンよりいたずらっぽく、ブリジット・バルドーより親しみやすく、フェイ・ダナウェイより茶目っ気があるうえ、可愛らしさを封印して迫真のシーンを演じるときも、動じるそぶりを微塵も見せなかったのだ。
 そして1980年、テリーはあのお粗末な映画『青い珊瑚礁』にブルックを出演させる契約を結んだ。同作は、太平洋の島に置き去りにされたティーンエイジャーの男女が性の目覚めを経験する、“乳首が見えそうで見えない”映画である。ブルックがカルバン・クラインのジーンズのイメージキャラクターを引き受けたのもこの頃だった。広告の目玉となったのが、この不朽の名台詞だ。
ダブル・ミーニングを駆使したこのフレーズは、「未成年の私の大陰唇と世界の間には、薄いデニムのマチしかないの」とでも解釈できるものだった。
強いフランス語なまりで話すカルディナーレの魅力は、セクシュアリティー、知性、慎み深さ、決断力が渾然一体となって生まれたものだった。友人らに“CC”
の愛称で親しまれた彼女は、英語、フランス語、イタリア語、アラビア語、スペイン語を流暢に話した。
彼女は“見せないのが良いヌード”という方針を断固として曲げず、それに自信を持っていた。同時代の女優の多くは、ストーリーが少しでも許せば裸身をさらしていたが、カルディナーレにはその流れに追随する気はなかったのである。
1960年代中期から後期にかけて、カルディナーレは『目かくし』『名誉と栄光のためでなく』『アフリカ大空輸』『プロフェッショナル』といったハリウッド映画に多数出演した。だがその美しさの奥には、内に秘められていながらも、止めようのない何かが生み出す小さな炎が揺らめいていた。ボブ・ディランも、そんな彼女の姿を『ブロンド・オン・ブロンド』の最初のアルバムジャケットに使用したほどである。ただ、無断で使用していたことが後に明らかになったので、すぐにそのジャケットは改訂されてしまった。
彼女の演技の特徴は、物足りなげなアンニュイさであったが、それはやがて実生活にも波及していく。高潔な心、怨恨、銃など、持っているものはそれぞれ違っていても、プレイガールばかりを演じることに疲れた彼女は、より中身のある作品を求めてヨーロッパへ戻ることとなる。
以来、彼女の演技や作品はそれまでとは異なる重みや味わいを持つようになった。その変化は男女平等というテーマにおいて特に顕著で、2000年には女性の権利保護を支援するユネスコ親善大使に選ばれ、カンヌ映画祭では、審査員団の一員として映画界の発展に尽力しただけでなく、自身もさまざまな賞を受賞したのだ。最近も、『Signora Enrica(原題)』で年配のイタリア人女性を演じ、2010年の第47回アンタルヤ・ゴールデン・オレンジ映画祭で最優秀女優賞を獲得した。

ダイヤモンドのように続く輝き

 重要なのは、カルディナーレが今なお役者であり続け、進化の日々を送っているということだ。現在は『Piccolina bella(原題)』と『Der Friseur(原題)』というふたつの作品が進行中。さらに近年は、若さを失ってゆく女性を絶妙な筆致で描いたテネシー・ウィリアムズによるふたつの演劇作品にも出演した。また、2014年公開の『Effie Gray(原題)』でカルディナーレと共演したエマ・トンプソンやダコタ・ファニングのように、彼女と一緒に仕事をしたいと熱烈なラブコールを送る役者は後を絶たない。カルディナーレは2014年にこう語った。
「映画に出演するたび、違う女性にならなくてはいけないの。写真も同じよ。けれど仕事が終われば自分自身に戻るの」
どちらも本物の彼女であり、彼女はまさに、映画『ピンクの豹』のタイトルの由来となったダイヤモンドのような存在だ。多面的で、うっとりするような輝きを湛えた、見る者すべてが手に入れたくなるような女性なのである。それが叶いさえすれば、と願わずにはいられない。

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Claudia Cardinale
クラウディア・カルディナーレ
1938 年チュニジア生まれのイタリア人女優。『ブーベの恋人』『鞄を持った女』『山猫』など、イタリア映画史に残る数多くの名作への出演経験を持つ。美しい顔立ちと、大人な可愛らしさがチャームポイント。今も現役で女優を続けている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 12