Monday, October 23rd, 2017

The Bold and the Beautiful
魔性の女、列伝

カネや権力に惹かれる女性が、美しさやセックスに惹かれる男性より浅はかだなんて、言えるだろうか?
自らの持てる武器すべてを使って運命を切り拓いていった女たち。
彼女たちは男勝りの度胸と強烈な個性を備えていた。
text james medd

宝石泥棒だった女

 動物愛護に加えて、2人が魅せられたのはジュエリーである。ジュエリーは何世紀にもわたって、富豪が美女を手に入れるための“愛の通貨”だった。
 光りものに魅せられて深みにはまった美女は他にもいる。ステファニア・フォン・コリーズ・ツー・ゲッツェン男爵令嬢だ。米国、ドイツ、フランスのパスポートを持ちながら、オーストラリア出身と言われているミステリアスな女性だ。彼女は1936年に生まれ、ロンドンのメイフェアとパリのセーヌ左岸で暮らしていた。
 彼女が男性に与えた影響は瞠目に値する。イタリア人画家のピエトロ・アンニゴーニは、ステファニアの美や精神を表現しようとしてあまりにも大きな肖像画を描いたため、彼女はその絵を置く場所を確保するために引っ越さなければならなかった。
 次のお相手はロベール・ド・ムサック男爵だった。彼女はこのフランス貴族とともにパリやグシュタード、カップ・ダンティーブの旬なイベントに出没した。フランスのファッション誌『ロフィシェル』では2人を“ジェットセッターでも指折りのベストドレッサー”と称え、『タイム』誌は“この2人よりシックなカップルはパリ中を探してもいない”と書いた。
 しかし、ステファニアは1982年に起きた、パリの新聞曰く“今年最高にスノッブな強盗事件”を引き起こしてしまう。
 その前年にパリのオテル・リッツでメキシコの大富豪が武装強盗に奪われ、250万ドル相当のリングを奪われていた。
 保険会社は「素直に返せば、何も言わず30万ドルを払う」ことを公示した。ステファニアはあろうことか、そのリングを保険会社に引き渡そうとして、おとり警察官に逮捕されたのだ。彼女は自分が単なる仲介役だと主張し、仲間2人はムサック男爵の関与をほのめかした。
 ステファニアと男爵は延々と取り調べを受けたが、結局不起訴になる。しかし、ステファニアは前年にニューデリーのオベロイ・インターコンチネンタル・ホテルで起きた事件にも関与していた。そのときは、ダイヤモンドのイヤリング一対がホテルの金庫から盗まれたと訴えたらしい。
 以後の捜査で、彼女が多額の借金をしてジュエリーを購入していることが判明した。警察は残された宝石が本当に彼女のものかどうかを確認する必要があるとコメントした。
 ステファニアは2013年に亡くなった。本名その他は明らかになっていないが、美しき宝石泥棒としてのミステリアスな伝説は、今でも語り続けられている。

フィオナ・フォン・ティッセンと夫のハンス・ハインリヒ・ティッセン=ボルネミッサ(1956 年)

カスタニョーラで乾杯する新婚夫婦(1956 年)

THE RAKE JAPAN EDITION issue 18
1 2 3 4