July 2016

STATELY STYLE

「英国的」とは何か?

text masatoshi mori photography stephen hayward
issue02_150331_01

マーチ卿の『グッドウッドハウス』の正面玄関写真。公爵家の紋章が描かれた旗が掲げられる。17世紀から英国貴族の社交の中心として栄え、現在では次期リッチモンド公爵であるマーチ卿の才覚でフェスティバル・オブ・スピードが4日間開催され、毎年50万人を集める大イベントに成長している。
PHOTO: Goodwood Collection

「英国的」とは、一体どういうことなのか?「英国的とはまず、良い伝統を守るということです」とハケット氏は言う。トラッド(伝統)を重んずるファッション・デザイナーらしい意見だ。

「逆説的には良いものだから伝統になる。ファッションでもスポーツでも、一世を風靡したものには普遍的な魅力がある。幸運にも我々英国人は、そういった素晴らしい伝統に囲まれています。かつて大勢の人たちに愛されて時を超えたスタイルと習慣、文化がある。そういう中で、本質を見極める人間になる。紳士というのはそういう存在でしょう」

 確かに英国紳士は冷静だ。ジェームズ・ボンドは決してパニックに陥らず、数々の危機をクールに切り抜ける。

「その通り。まず伝統を愛す。そこを基盤にして、我々英国人は自由を愛し、新たな創造力に敬意を抱きます」

 そう言ってハケット氏に続いたマーチ卿は、英国の超エリート寄宿学校『イートン』を16歳で飛び出すと、公爵家嫡男にもかかわらず、写真家の道を歩み始めたという経歴の持ち主だ。

「私の両親は進歩的な人間で、私が写真家になることに反対しませんでした。しかも私は39歳でこのグッドウッドを相続しました。父親がまだ自分が生きている間に異例の相続を決めたのです。だからこそ『フェスティバル・オブ・スピード』が誕生しました。若かった私の感性が生み出したイベントです」

 マーチ卿の実父第10代リッチモンド公爵は85歳で今もかくしゃくたるもの。息子の器量を見抜き、マーチ卿の自由な感性を取り入れて、公爵家に未来の繁栄を呼び込んだ。これもまた英国ならではの、絶妙たる伝統と革新の融合である。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 06
1 2 3