May 2018

PARADISE FOUND

コリン・テナント男爵が作った島

text james medd

コリン・テナント、アン・テナント夫人、バジル・チャールズ、ニコラス・コートニーとともに、ビーチでのひとときを楽しむマーガレット王女(1972 年)。

「まるでケニアのような島でした。私たちは、1本しかない道路を車で移動し、ヤブ蚊だらけの場所に座ったのです」と、王女は後に回想している。

 スノードン卿は二度と来島しなかったが、マーガレット王女は、なぜかこの島を気に入った。10年後、自分の王国を建設し続けていたテナントのもとに、王女は戻ってきたのである。滞在場所は相変わらず質素だったが、今回は王女のお気に召した。

「停電も不定期に起きました。ですが、私は気にしなかった。あそこは日常を離れるための場所でしたから」

 それから30年にわたり、王女は毎年島を訪れた。彼女はプレゼントされた土地に家を建てるよう、テナントにせっついた。家の建設は当初の約束には含まれていなかったが、テナントは王女のどのようなわがままも受け入れた。王女が土地の境界を示す標識を移動して“領土拡大”を図ったときも、それは変わらなかった。マーガレット王女の家は、1973年に完成した。王女はさまざまなブランドから贈呈された品々で家を飾り、マスティク島でローマ皇帝のように暮らした。

 毎日遅い時間に起床し、島で唯一のホテル、コットン・ハウスに立ち寄って一杯飲むと、ビーチへ行ってピクニックや遊泳を楽しんだ。王女には取り巻きが同行し、いつでも話し相手となった。水から上がると、足に付いた砂を洗い流せるよう、真水の入ったたらいが用意されていた。マーガレット王女にとっての楽園は、公務から解放され、世間の目から逃れて好きなように振る舞えると同時に、王族としてもてなされる場所でなければならなかったのだ。王女が他人の家に客として滞在しているときでも、家の所有者は王女に膝を曲げてお辞儀をしなければならなかった。

 エリザベス女王も初期の訪問者のひとりだった。1966年、西インド諸島の歴訪中に島を訪れた女王は、ロングドレスやモーニングコート、シルクハットを身に着けた地元の人々の一団に出迎えられた。衣装はすべて、テナントの家にある、古い洋服の詰まったトランクから引っ張り出されたものだった。物質的には乏しい場所ではあったものの、プライバシーと太陽の光を享受でき、エリザベス女王とフィリップ王配を楽しませた。この島は、後にウィリアム王子とケイト・ミドルトンのお気に入りの旅先ともなる。

ミック・ジャガーとデヴィッド・ボウイも 当初の居住者の多くは、非常に裕福な人々だった。彼らを引きつけたのは、テナントの仕込んだ華やかなビーチピクニックだけでなく、彼が実現していた島の免税地化だった。しかし、その暮らしぶりは5つ星ホテルというよりも、必要最低限の生活に近かった。世界各地を巡り、テレビタレントとして活躍していたアラン・ウィッカーも、来島した際、衝撃を受けてテナントにこう尋ねた。

「蚊に食われて、全身虫よけ剤まみれですよ。これのどこが楽園なんです?」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 22
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