February 2018

La Vida Bella

秘密の楽園、マルベーリャ

text nick foulkes

プールサイドのアリソン・マクラウド(1989年)

キューバ危機もどこ吹く風 私が2番目に気に入っているマルベーリャ・クラブの逸話は、他ならぬフィデル・カストロが生み出したものだ。クラブが見事なまでに外界から隔離されていることが浮き彫りになったのは、キューバミサイル危機の際だった。カリブ海で膠着状態に陥った米ソの冷戦が、第三次世界大戦に発展しかねないと戦慄する外界の人々とは対照的に、新聞がなく、電話もかけづらいマルベーリャ・クラブの客は、いささか世間の情報に疎かった。

 キューバ危機当時、アルフォンソはメキシコに出かけていた。数日後、どうにかクラブに電話で連絡を取った彼は、危機が回避されたことを知らせながらも、客がひとり残らず去ってしまったのではないかと懸念していた。どうなったか彼が尋ねると、驚いたことに万事が平穏そのもので、世界の終わりが迫っていることなど客の耳には入っていなかったという。外界の人々が大規模な核戦争を覚悟していた一方で、マルベーリャでは夜な夜なパーティが開かれていたのだ。

 決して変わらないものはある。世界がどう転ぶかわからない場所であることも、マルベーリャ・クラブがそんな危うさから逃れるには最高の場所であることも、ずっと変わらない。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 11
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