Tuesday, October 23rd, 2018

マーティン・フリーマン ロングインタビュー
‘IT’S THE CLOSEST I’LL EVER GET TO BEATLEMANIA’

text nick scott photography simon emmett fashion and art direction sarah ann murray

ドレスシャツ Budd Shirtmakers
ブラックのボウタイ、ポケットチーフ ともにEmma Willis
ディナージャケット Nick Tentis
時計 Rolex 本人私物
ゴールドのカフリンクス property of The Rake

『シャーロック』(2015年)のワンシーン。

『ホビット 竜に奪われた王国』(2013年)のビルボ・バギンズ役。

『シャーロック』(2014年)で、ベネディクト・カンバーバッチとのワンシーン。

本当の恐怖を伝えるために

 『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は極めて重要な映画だと、フリーマンは言う。ホロコーストの恐ろしさを世界に知らしめるために放送されたテレビ番組をめぐる出来事について描かれているからだ。
「当時、アドルフ・アイヒマンの裁判が行われた頃は、すべてが終わって別のものに変わった瞬間だった……もっと畏敬の念を感じさせるようなものにね。それはきっと、僕らがいま言う『二度と繰り返してはいけない』という次元のものだ。でもそれは、規模こそ小さいが、それ以降も明らかに起きているし、これからもずっと起こり続けるだろうね。この映画の撮影中、役者たちが当時の映像を見ているリアクションをカメラに収めたんだけど、あれはとてもハードだった。聞くのも嫌なくらい」
 彼は、監督のポール・アンドリュー・ウィリアムズを説得して、『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』の撮影で実際にカメラを回すときに、キャストが初めて本物の映像を観るようにしたのだ。
「リアルなリアクションを撮ってほしかったんだ。本当の恐怖が良かった。つまらない俳優の視点ではなく、テーマを尊重した視点で観客には見てほしかった。普通の目撃者になれるのに、前もって情報を知っておく必要なんてないだろう。きっと観た人々は背筋が凍るはずだ。そうであってほしいしね。僕らだって怖かったんだから」
 この作品で、フリーマンの勉強家の一面が明らかになった。
「僕の仕事の醍醐味のひとつが、どれだけ学べるかっていうこと。だれの仕事もそうだと思うけどね。つまり、どれだけ『そんなこと全然知らなかった』って言えるかが大事。僕は、イスラエルの建国当初、多くの人々がホロコーストのことについて話も聞きたくなかった、っていうことを知らなかった。存在自体を信じたくなかったし、その程度についても信じたくなかったらしい。証言者や生存者に、どんなものか想像もつかないでしょうね、などと言われても、そんなことが起こったわけがないって思うことしかできなかったらしいね」
 会話の途中、彼は何度か眉間にしわを寄せ、疑い深い表情で宙を見つめた。

現実と向き合う俳優という仕事 以前とある記事に、マーティン・フリーマンの演技は一種の現実逃避だと、心理学風にそれらしく書かれていたことがある。だが、演劇学校で聞いた言葉を振り返り、こう語る。
「先生が、『俳優になることが、現実の世界から逃げることだと思っている人は、俳優には向いてない。実際は真逆だ』って言ったんだ。これは真実だよ。演技が現実逃避になるなんてありえないんだ。常に現実と向き合わなくてはいけない。しかも、誠実な俳優であれば、途中で辞めたりもしない。みんな司祭のように、一生背負っていく使命を持っているんだ。つねにさらなる上を目指して努力し続けるってこと。自分からは逃げられないし、必ずしもいいところばかりじゃない自分について知ることにもなる。けれど演技というものは、ある意味、芸術であり、表現方法であり、セラピーであって、いろんな側面がある。だから演技をしているとき、その瞬間の驚きに身を任せれば、独自の新しい考え方が発見できるような感覚で、物事に反応できるんだ」
 マーティン・フリーマンがどういう人間か、よく分かったことだろう。彼は、不可知論的で思いやりがあり、念入りに考え、激しい人生の荒波や、それが人間の状態にもたらす影響にもうまく順応できる人間だということである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 09
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