August 2018

FERRARI 340 AMERICA VIGNALE SPYDER
ON THE RISING ROAD OF EMPIRE

伝説となった跳ね馬

1952年、エンツォ・フェラーリと彼が育てた跳ね馬を世界制覇への軌道に乗せたのが、フェラーリ 340 アメリカ ヴィニャーレ スパイダーだ。
この公道仕様のレーシングカーは、20世紀半ばのモータースポーツ全盛期を象徴する名車である。
text jared zaugg
photography pawel litwinski / bonhams

フェラーリ 340 アメリカ ヴィニャーレ スパイダーは、エンツォ・フェラーリというひとりの男の野心を体現したクルマだ。そしてフェラーリの伝説を語るうえで忘れてはならない名車である。見事なシルエットはヴィニャーレのコーチビルダーたちが手作業で仕上げたものだ。

 ミヒャエル・シュテーレがボーデン湖のほとりにある自宅の近くで、アルプスのタイトコーナーを曲がると、ヴィンテージ・フェラーリの12気筒エンジンが発する轟音が丘の向こうまで響き渡った。ギアを入れると、楽器というよりもオーケストラといったほうがよい音が生まれ、トランスミッションとエンジンの共鳴音が、心地良い調べのように聞こえる。

 このドイツ人コレクターが所有するヒストリックカーは、飾っておくだけのクルマではない。シュテーレは64年前に製造されたレーシングカーを大切に、しかしエンツォ自身が意図したように、力強く、愛情を込めて運転している。「設計意図の通りに使わないと、このクルマに失礼だ」と彼は言う。

 もちろん、これほどのクルマを持つと、気軽に運転するわけにはいかない。数百万ドルの値が付くようなコンペティション・フェラーリの多くは移動手段というよりも、投資だと見なされている。

 フェラーリの現チーフデザイナー、フラビオ・マンゾーニが言うところの「動く彫刻」―が他ならぬ1952年式のフェラーリ340アメリカ ヴィニャーレ スパイダーだ。フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリが、有名な2大自動車耐久レース、ミッレミリアとル・マン24時間レースに出走するチームカーとして選んだクルマである。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 23
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