Thursday, June 15th, 2017

CLOUDE LELOUCH

CLOUDE LELOUCH
L’ART DE ‘ÇA PASSE OU ÇA CASSE’
2016年は映画『男と女』が製作、日本で公開されてから50周年にあたる。
大胆さと繊細さで、映画における「フレンチ・タッチ」を築き上げた
クロード・ルルーシュ。その独特のエレガンスを探ってみよう。
text stuart husband

 『男と女』で成功した後のことを、彼は次のようにも語っている。
「ハリウッドからゴマンとオファーが来たけど断ったよ。プロデューサーの奴隷になることがわかっていたから。ぼくの映画はその時々の気分、いつでもシナリオ変更ができる自由に基づいたものなんだ。当時、世界最高の俳優と思っていたふたり、スティーブ・マックイーンやマーロン・ブランドからもオファーが届いて、凄いことだから一考しようとシナリオを読んだけど、ふたりのアップや繰り返しだらけで無理だった(笑)。ぼくは迷信深くて、『男と女』の成功は自分の小さな映画観を徹底したからこそで、それにこだわるべきだと考えたんだ」
 彼のデビューは苦難に満ちたものだった。長編1作目『Le propre de l’homme』は、ヌーヴェル・ヴァーグ映画の牙城として知られたカイエ・デュ・シネマ誌に「クロード・ルルーシュという名を覚えておくといい、二度と聞くことはないだろうから」と酷評された。この失敗で彼はスコピトーンという音楽に合わせて映像が流れるジュークボックス向けに、今日でいうミュージックビデオを撮る仕事をこなして借金を返した。この経験で音楽の重要性を認識したと彼は述懐する。
 「音楽は無意識に、対照的にシナリオは知性に働きかけることを理解したのさ。
だから自分は知性に向けた映画ではなく、感性に訴える映画を撮ろうと。前作『アンナとアントワーヌ』をインドで撮ったのもそれさ。インドは大いなる非合理の国だからね。知性は“われわれは死すべき存在”と、非合理は“われわれの存在は永遠の中にある”という。後者のほうがぼくは面白いし、これをわれわれの無意識に語りかけるのは音楽なんだ。もし神がいるなら、必ずやミュージシャンのはずだよ!」
初期の自分の作品に否定的で、ほぼ同時代を生きたヌーヴェル・ヴァーグの監督たちに対し、彼はこうも語る。
 それまでスタジオで撮っていた映画というものが、コダックのASA感度400の新しいフィルムのおかげで外に出られるようになった。ぼくも早いうちからカメラを担いで外に出たクチだったから、ヌーヴェル・ヴァーグに興味津々だった。でもある日気づいたんだ。どうして彼らの作品はこうも文学的なのか?と。ゴダールもトリュフォーも、撮るより書いたほうがいいんじゃないか、彼らは作家なのにわざわざ映画を使いながら遠回りして表現をしているようだと」
 ルルーシュは『男と女』の大ヒット後、常に批評家筋から不当ともいえるほど厳しく評価されたが、フランソワ・トリュフォーからは逆に「あなたはヌーヴェル・ヴァーグの子供でありながら一般大衆に受け入れられることに成功した」と激賞され、1988年製作の『夏の月夜は御用心』についてゴダールからは「今年観た中で最も美しい映画」という手紙を受け取ったという。
 ルルーシュの男気に惚れるのはインテリに限らない。ギャングや刑事の役で鳴らしたリノ・ヴァンチュラの自宅まで、コメディ映画の出演交渉にのり込だルルーシュは、「馬鹿を描く映画で、シナリオはまだどうなるかわからない」と切り出した。ヴァンチュラは「どんな馬鹿なんだ?」と聞き返し、彼はこう続けた。
「他のすべてを差し置いて、金が人生で一番大切なものになったら、それが馬鹿ってことさ。だから金のことしか考えない馬鹿どもの話で、あんたにはそのボスをやってもらう」
「おれは馬鹿どものボスになるのか」
「馬鹿ほど魅力的なものはない。頭のいい奴にお世辞を言うとこっちが馬鹿に見られるが、馬鹿はお世辞ひとつ言えば大人しくなる。逆に馬鹿の悪口を言うと、死ぬまで離してくれなくなる」
 あのフィルム・ノワールのスターを相手に、まるで催眠術にかけるかのようなやり口ではないか。ルルーシュの世界は、リスクに賭けるスリルと、完璧に報われたときの喜びで構成されているからこそ、ロマンチックなのだ。

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『男と女』はフォード・フランスの全面協力の下に撮影された。『ランデヴー』はメルセデス・ベンツ450SEL 6.9を撮影車に、フェラーリ275GTBのエキゾーストを効果音として後から被せたことは有名。

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ルルーシュのお気に入り俳優の代表格、ジャン゠ルイ・トランティニャン。1986年の『男と女Ⅱ』の製作時のひとコマだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 13
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