June 2017

L’ART DE ‘ÇA PASSE OU ÇA CASSE’

CLAUDE LELOUCH

text stuart husband

『男と女』はフォード・フランスの全面協力の下に撮影された。『ランデヴー』はメルセデス・ベンツ450SEL 6.9を撮影車に、フェラーリ275GTBのエキゾーストを効果音として後から被せたことは有名。

『男と女』で成功した後のことを、彼は次のようにも語っている。

「ハリウッドからゴマンとオファーが来たけど断ったよ。プロデューサーの奴隷になることがわかっていたから。ぼくの映画はその時々の気分、いつでもシナリオ変更ができる自由に基づいたものなんだ。当時、世界最高の俳優と思っていたふたり、スティーブ・マックイーンやマーロン・ブランドからもオファーが届いて、凄いことだから一考しようとシナリオを読んだけど、ふたりのアップや繰り返しだらけで無理だった(笑)。ぼくは迷信深くて、『男と女』の成功は自分の小さな映画観を徹底したからこそで、それにこだわるべきだと考えたんだ」

 彼のデビューは苦難に満ちたものだった。長編1作目『Le propre de l’homme』は、ヌーヴェル・ヴァーグ映画の牙城として知られたカイエ・デュ・シネマ誌に「クロード・ルルーシュという名を覚えておくといい、二度と聞くことはないだろうから」と酷評された。

 この失敗で彼はスコピトーンという音楽に合わせて映像が流れるジュークボックス向けに、今日でいうミュージックビデオを撮る仕事をこなして借金を返した。この経験で音楽の重要性を認識したと彼は述懐する。

「音楽は無意識に、対照的にシナリオは知性に働きかけることを理解したのさ。だから自分は知性に向けた映画ではなく、感性に訴える映画を撮ろうと。前作『アンナとアントワーヌ』をインドで撮ったのもそれさ。インドは大いなる非合理の国だからね。知性は“われわれは死すべき存在”と、非合理は“われわれの存在は永遠の中にある”という。後者のほうがぼくは面白いし、これをわれわれの無意識に語りかけるのは音楽なんだ。もし神がいるなら、必ずやミュージシャンのはずだよ!」

 初期の自分の作品に否定的で、ほぼ同時代を生きたヌーヴェル・ヴァーグの監督たちに対し、彼はこうも語る。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 13
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