December 2017

BRIGHT LIGHTS, B.I.G. CITY

24歳で散った“ビギー”

text by christian barker

「パフは恩人だ。俺のことを気にかけてくれる。わかるかい? ストリートから抜け出させてくれたんだ。俺にチャンスをくれた。パフのことは大好きさ」

 1994年は、ウォレスにとって重要な意味を持つ1年になった。同じくバッド・ボーイに所属するアーティスト、フェイス・エヴァンスと出会い、わずか1週間余りで結婚したのだ。ウォレスはその後間もなく、象徴的なデビューLP『レディ・トゥ・ダイ』もリリースした。同アルバムのファーストシングル『ジューシー』は、アンダーグラウンド界とラジオですぐさまヒット。セカンドシングル『ビッグ・ポッパ』とサードシングル『ワン・モア・チャンス』は、ミリオン超えのセールスを達成した。魅力的な要素にあふれたパフィのプロデュースと、B.I.G.の滑らかで明瞭な語りは、B.I.G.が思春期から売っていたクラックコカインに匹敵するほど中毒性のあるサウンドを生み出した。薬物売買の経験は、彼が紡ぎ出す説得力あるストーリーの中心であり続けた。

「俺の音楽には聴いて為になるようなメッセージなんて込められていない。基本的にはただの自叙伝なんだ。俺はただ音楽を作っているだけだ」と彼はインタビュアーに語っている。

 ビギーは『ジューシー』の中で、自らの幼少期についてこんな風に歌っている。

「大家にバカにされては やきもきした/暖房もなく なぜウチにはクリスマスが来ないのかと思ったもんだ/誕生日は最悪だった/それが今じゃ喉が渇けばシャンパンをちびちびだ」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 19
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