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ジェイエムウエストンは
私の初恋だった靴

My First Love Shoes, J.M. WESTON

Friday, December 7th, 2018

 

text kentaro matsuo photogaphy tatsuya ozawa

 

 

 さて、先にタネ明かしをしてしまうと、私が世界で一番好きな既成靴のブランドは、ジェイエムウエストンである。ジョン ロブもエドワード グリーンも素晴らしいと思うけれど、やっぱり好きなのはジェイエムウエストンだ。その理由を話そう。

 

 ジェイエムウエストンの東京・青山店がオープンしたのは、今から25年前の1993年である(この店は、骨董通りの同じ場所に今もある)。

 

 四半世紀前の東京でも、欧米の本格靴は手に入ったけれど(ジェイエムウエストンもシップスには置いてあったけれど)、それはあくまでも単品だけの話で、本国とまったく同じフルラインナップとサービスまで含めて上陸したのは、間違いなくジェイエムウエストン青山店が初めてだった。

 

 その店舗に足を踏み入れたときの衝撃を、いまだに忘れられない。同じブランドなのに、ローファーからフォーマル・シューズまで、いろいろな靴がさまざまな色で並べられていて、それぞれの靴に、たくさんのサイズが用意されていた。特にウィズの充実ぶりには目を見張った。靴のみならず、シューキーパーや靴クリームまでオリジナルが展開されていて、全部“ジェイエムウエストン”のロゴが入っていた。

 

 今の若い人が聞けば、「そんなの当たり前じゃん」と思うかもしれないが、当時の東京では、どこを探してもそんな店はなかった。オリジナルのクリームを開けると、甘い蜜蝋の匂いがしたが、そんな香りを嗅いだのも初めての経験だった。

 

 

オリジナルの靴クリーム(右)¥4000とワックス(左)¥4000  J.M. WESTON

 

 

 当時の日本人は、ジェイエムウエストン青山店によって生まれて初めて“本格靴店”というものに触れたのだ。私もその一人で、まるで初恋の人を思うがごとく夢中になった。見るものすべてが新鮮だった。

 

 今でもジェイエムウエストンは、日本で根強い人気を誇っており、全世界の店舗51店のうち14店が日本にあるが、これはやはり“初恋効果”であろう。すべての男にとって、初めての恋人が忘れられないように、私もジェイエムウエストンをいまだに偏愛しているのだ。

 

 

ジェイエムウエストンの大定番にして私が夢にまで見た靴、♯641ゴルフ。¥115,000 J.M. WESTON

 

 

 当時20代だった私にとって、ウエストンの靴は高かった。一番憧れたのは、定番の#641ゴルフだ。これは、フランス帰りのデザイナーの人が持っていて、「シャンゼリゼの店で買った」と自慢していた。当時のファッション界では、ウエストンのパリ、シャンゼリゼ店へ行ったことがあるというのが、一種のステイタスだった(私はもちろん行ったことはなかった)。

 

「タキシードから、軍パンまで、何にでも合うんだよ」と豪語していた。今でもそれは本当だと思う。もし一足しか靴を持てないなら、黒のゴルフにする。タキシードはともかく、スーツからカジュアルまで、こんなにオールマイティな靴はない。

 

 あまりにゴルフが欲しくて、毎日ゴルフのことばかり考えていたら、ついに夢にまで見るようになった。夢の中でゴルフを履いていて、目が覚めると持っていないことに気付きがっかりする。このままでは「もう体に悪い」と思って、ついに購入することにした。

 

 

ジェイエムウエストンのパリ、シャンゼリゼのショップ。靴好きの聖地。

 

 

 以前ファッションに全然興味がない、そしてものすごくケチなフランス人の友人がいた。彼は驚いたことに、5年に一度くらいしか服を買わないという。

 

「服にカネをかけるヤツはバカだ」が口癖だった。そんな彼が唯一持っていた靴が、黒のゴルフだった。彼曰く、「この靴を買ったのは3年前だが、毎日履いて、いまだにソールを取り替える必要がない。こんなに丈夫なゴム底の靴はない。いい買い物だった・・」。

 

 格好に無頓着な彼が、本国でも相当高価なウエストンを履いているということに驚き、フランス人のお洒落の奥深さを垣間見たような気がした。

 

 それにしても、なぜかゴルフのラバーソールは減らないのだ。特殊な素材で出来ているのだと思う。以前、ウエストンの前社長にインタビューした時に、これについて質問したことがあるが、「企業秘密だよ」と言われた。それからゴム底なのに、ムレない。これも不思議で、やはり聞いたら「いい靴はムレないものだ」とかわされた。

 

 いずれにしても、マイ・ファースト・ウエストンであるゴルフは、思った以上に快適な靴だった。

 

 

#180シグニチャーローファー。これは靴ファン垂涎のアリゲーターモデル。¥590,000  J.M. WESTON

 

 

 次に買ったのは、#180シグニチャーローファーだ。たぶんジェイエムウエストンで一番有名な靴だろう。場所は憧れのシャンゼリゼ店である。パリ出張が叶い、ドキドキしながらドアを開けたことを覚えている。薦められたのは、相当に小さめの一足で、「小さすぎる」と必死に訴えたが、「いまに革が伸びるから」と押し切られてしまった。

 

 ここで私も、往年のウエストン・ファンなら誰もが経験した苦行を強いられる。足が痛いのだ。パリで買った一足を東京で履いてみたら、フィッティングした時以上にキツく感じた。それでもがんばって、半年は履いたと思うが、ついにギブアップして、泣く泣く人に譲ってしまった。ジェイエムウエストンのローファーは丈夫だし、サドル部分は“伸びないよう工夫して”取り付けられているので、コトは容易ではなかったのだ。

 

 それにこれは後から、有名インポート靴店Wの店主に聞いたのだが、海外へ行くと、人の足のサイズは変わるそうだ。

 

「人によって、大きくなったり小さくなったりする」そうで、私の場合は、どうもヨーロッパへ行くと、足が小さくなる(ような気がする)。だから、ジェイエムウエストンの靴を買うなら、絶対に日本のほうがいい。その一件以来、私は買うなら国内と決めている。

 

 定番のローファーには、昔からアリゲーターとリザードを使ったモデルがある。これは「いつかは手に入れたい靴」として、昔から洒落者たちが憧れの一足である。私は友人より「中古で」リザードのローファーを譲り受けたが、その圧倒的な存在感ゆえに、履きこなすのがなかなか難しい。お洒落好き&靴好きの最終到達点のひとつといってよい。

 

 

#677ハントダービー。ジェイエムウエストンのラインナップ中、最もクラシックな一足。¥320,000  J.M. WESTON

 

 

 #677ハントダービー(当時は“ド・ゴール”と呼ばれていた)にも心底驚かされた。分厚いダブルソールに、無骨なノルヴェジアン仕上げ。まるで小振りの岩のようで、その存在感は圧倒的だった。よく口の悪い靴ファンの間では、靴のハード〜ソフト感を表す際、「その靴で人が殴り殺せるかどうか」という表現を使うが、ハントなら殴られたほうは即死だ。今でも、武器としては世界最強の靴だと思う。それでいて、トゥやモカ部分のシャドウ・ステッチには、繊細な職人技が見てとれる。ハード&メロウ。鑑賞の対象としても、これ以上の靴はない。

 

 

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